こんにちは、ARやVRといったXR領域やNFTなどのWeb3領域を推進している創造開発ブロックの@ikkouです。ZOZOCOSMEのARメイクなどを担当しています。
2023年1月5日から8日の4日間にかけてラスベガスで開催された「CES 2023」に参加してきたので現地の様子をお伝えします。2020年以来、3年ぶりの現地参加となりました。
CESとは
CESはCTA(Consumer Technology Association)が主催する、毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級と言える「テクノロジーのショーケース」です。読み方は「せす」と呼ぶ方もいますが、正しくは「しーいーえす」です。
一昨年の「CES 2021」は新型コロナウイルス感染症の影響でCES史上初の完全オンライン開催となりました。そして昨年の「CES 2022」はオンラインとオフラインのハイブリッド開催ではあったものの、会期直前にオミクロン株がまん延した影響で出展や来場を見合わせる動きが目立ち、出展社数も来場者数も大幅に激減しました。さらに通常4日間の会期は1日短縮されていました。そして今年の「CES 2023」はハイブリッド開催を維持したまま、参加者数は「CES 2020」相当の活気を取り戻し、会期も4日間に戻りました。しかし、出展社数は「CES 2020」の5割程度と、まだ完全復活には時間がかかるかもしれません。
展示会場について
CESの展示はTech East・Tech West・Tech Southという3つのエリアに大別されます。
特にLAS VEGAS CONVENTION CENTER(LVCC)から成るTech EastとVenetian Expoを中心とするTech Westにブースが多く集まっています。さらにTech Eastの中心となるLVCCはWest Hall・North Hall・Central Hall・South Hallに大別されます。
「CES 2020」参加当時はまだWest Hallが建設中でしたが、「CES 2022」からWest Hallが追加されています。また、「CES 2023」ではSouth Hallが改修工事中だったため、LVCCに関してはWest Hall・North Hall・Central Hallの3エリアをまわる形となっていました。
https://www.ces.tech/exhibits/official-show-locations.aspx
今年は諸事情により会期4日目の早朝には現地を発つ必要があったため、3日間を効率よく使うためにTech EastのLVCC、Tech WestのVenetian ExpoとWynn Las Vegasに絞って朝から夜まで歩き回りました。
LVCC LoopによるLVCC各会場間の移動
West Hall・North Hall・Central Hallの3ホールをまわることになるLVCCですが、各会場間は徒歩でも移動できるものの、実際に歩くことなると時間がかかります。「CES 2020」当時はWest Hallが存在していなかったとはいえ、North Hall・Central Hall・South Hallを移動するだけで体力を消費していました。しかし「CES 2022」からVegas LoopのLVCCルートが開通したことで状況は大きく変わりました。
Vegas Loopはイーロン・マスク氏率いるThe Boring Company社が運営するLVCCの会場間を繋ぐ地下トンネルです。
「CES 2023」ではコンラッド系列のリゾートワールドからLVCC West Hallの北側を繋ぐ路線と、LVCC West Hallの南側、Central Hall、South Hallを繋ぐ路線の2路線が運用されていました。前者のリゾートワールドとLVCC West Hallを繋ぐ路線は1日$4.50の有料でしたが、LVCC間を繋ぐ路線は無料でした。
何度かLVCC West HallとCentral Hallの移動に使いましたが、歩くと15分程度かかる道のりがわずか2分足らずで到着するので、とても便利でした。ちなみに、テスラと言えば「オートパイロット」のイメージがあるかもしれませんが、LVCC Loopでは人間のドライバーがハンドルを持っていました。ハンドルを「握る」というよりは「持っていた」ようだったので、Level 2相当のADASかもしれません。
このVegas Loopは将来的にはラスベガスの主要エリアを結ぶ交通システムとして開発されることが予定されています。同じラスベガスで毎年開催されている「AWS re:Invent」の参加者が利用する未来もあるかもしれないですね。
AR Smart GlassesとVR HMDの状況
LVCC Central Hallには「Gaming | Metaverse | XR」とカテゴライズされた一画があります。このカテゴリー名は業界の世相を表していて、「CES 2020」当時は「AR/VR & Gaming」でした。「CES 2023」では、昨今の「メタバース」ムーブメントもあり「Metaverse」が追加され、「AR/VR」はその総称である「XR」に置き換わっていました。
「CES 2020」当時もたくさんのXRデバイスを試してきましたが、もちろん「CES 2023」でもXRデバイスを第一の目的として各社のブースをまわってきました。
「CES 2020」当時と比較するとAR Smart Glassesの勢いは少し落ち着いたように感じました。一口にAR Smart Glassesと言っても、レンズ越しに様々な情報を見せるものから、HDMIケーブルでスマートフォンやコンソールデバイスと接続して大画面で見せるもののふたつに大別できます。「CES 2022」では、後者の大画面で映像を見ることを目的としたデバイスが目立っていたように感じました。
VR HMDについては「CES 2023」で実物が初お披露目となった「Lynx R-1」や、「CES 2023」で発表された「VIVE XR Elite」などが特に注目を集めて賑わっていました。昨今のVR HMDは視界を100%バーチャルなものに置き換える、これまでのVRデバイスから、デバイス前面に搭載されているカメラで「現実世界をビデオパルスルーで見せる機能」が主流になりつつあります。これはMixed Realityの考え方です。
「Lynx R-1」については先行してクラウドファンディングでプレッジしていることもあり、光学系を担当しているエンジニアの方と性能面などについてやり取りしました。
日本からは「CES 2020」でパナソニックが「眼鏡型VRグラス」として発表し話題になったものが、パナソニックの100%子会社となったShiftallより「MeganeX(メガーヌエックス)」の量産機として展示されていました。また、シャープからはスマートフォンに繋ぐタイプの「VR GLASS」のプロトタイプが展示されていました。
VRと言うと「ゴーグルのような被るもの」を想像する方も多いかと思いますが、VRは五感に対して作用するものなので、例えば「触覚」を提示するものもVRの一部です。「CES 2023」ではこの触覚提示デバイスに相当するものが「CES 2020」当時よりも多く感じました。特に先日クラウドファンディングを終えたDiver-Xの「ContactGlove」は要注目です。
衣類の購入に際して、店頭での購入とオンラインECでの購入の違いのひとつとして生地に触れられる、という観点があります。将来的にこういった「触覚」を提示するデバイスが一般化、普及することで、メタバース空間における買い物体験が変わるかもしれません。
本記事では取り上げていないXR関連デバイスを含め、先日オンライン開催した「CES2023 オンライン報告会 ~XR関係者による本音トーク!~」のアーカイブが残っています。興味のある方はぜひご覧ください。「CES 2023」現地での交流もあり、Lynx R-1 CEOの方がフランスよりライブで繋いで日本からの質問に答えているのは貴重かもしれません。
Fashion TechとBeauty Tech
XR関連以外にも面白そうなもの、業務に活かせそうなものは見てまわりましたが、その中でも特にFashion TechとBeauty Techは注視するようにしていました。これらのブースの多くはTech West, Venetian Expo 2FのLIFE STYLEエリアに出展していました。「CES 2023」では、ZOZOCOSMEのARメイクでも利用している「YouCam メイク」のパーフェクトが出展していなかった他、「CES 2020」と比べミラー系のデバイスが減ったようでした。
Fashion Tech Newsの記事でも取り上げている「CES 2020」で人気を博していたPrinkerは「CES 2023」でも同じように大盛況でした。
左の写真がPrinkerのブースで試しに印刷してもらったもので、右の写真が比較対象として現地で描いてもらったジャグアタトゥーです。どちらもインスタントタトゥーですが、Prinkerはプリントしてもらった黒以外にカラーも可能です。また、デバイスの大きさに依存するためサイズはやや小さく、耐久性は2-3日程度です。対するジャグアタトゥーは青寄りの色で、手書きのため大きさに制限はなく、ベストな発色は1週間程度です。類似のデバイスはまだそう多くありませんが、こういった可逆性のあるファッションの楽しみ方が今後どうなっていくのか楽しみです。
日本からはKoséが「Maison KOSÉ銀座」で体験できる、デジタルパーソナルカラー体験「COLOR MACHINE」と関連する技術を出展していました。KoséのコスメブランドのひとつであるESPRIQUEがZOZOCOSMEのARメイクに対応しているという繋がりもあり、「COLOR MACHINE」の存在は認識していました。しかし、なかなか足を運ぶ機会がなく、奇しくも異国の地で体験することになりました。「Maison KOSÉ銀座」では体験後にパーソナルアドバイスシートを頂けるようなので、興味のある方は足を運んでみてください。
ファッション文脈ではWynn、Venetian Expoの近くにあるラスベガス最大級のショッピングモール「Fashion Show Las Vegas」も覗いてきました。ここでは週末にライブやファッションショーが催されるのですが、タイミングがあわず、それらは見れませんでした。
おわりに
前回同様、今回のCESは開発部門の福利厚生である「セミナー・カンファレンス参加支援制度」を利用しての参加となります。
世界情勢に伴うフライト価格の高騰や円安の影響を受け、海外カンファレンスへの参加コストは確実に上昇しています。実際、今回も2020年参加時と同じ航空会社・宿泊施設を利用しましたが、およそ1.5倍の金銭的コストが発生しました。CESに限らず、海外カンファレンスの参加におけるこうした金銭的コストの妥当性を説明するのは難しい側面もありますが、ことXR領域に関しては文字通り「百聞は一体験に如かず」です。現地に足を運び、その目その手で体験することに価値があると考えています。
CESの特性上、本来であれば現地でのビジネスミーティングの実施や、会食などを通してより深いやり取りをするべきですが、今回に関しては新型コロナウイルス オミクロン株の派生型「XBB.1.5」がアメリカで急速に広がっている状況を鑑みて泣く泣くそういったコミュニケーションを見送りました。そういった事情もあり、例年よりも直接的に得られているものが少ない分、より意識的に業務に活かしていきたいと考えています。
最後までご覧いただきありがとうございました。ZOZOでは、各種エンジニアを採用中です。ご興味のある方は以下のリンクからご応募ください。
現場からは以上です!