こんにちは、ARやVRといったXR領域を推進しているInnovation Initiativeの@ikkouです。2020年1月7日から10日の4日間にかけてラスベガスで開催されたCES 2020に全日程で参加してきました。
CES期間中は現地からTwitterでリアルタイムにレポートしていましたが、本記事ではXR領域のトピックスを中心に、特に興味深かったものをお伝えします。
- CESとは
- 溢れかえるAR Smart Glassesと勢いの弱まるVR HMD
- デルタ航空が示したパラレル リアリティ ディスプレイ
- バーチャルヒューマン“Neon”の衝撃
- High-Tech Retailing
- なぜCESに参加するのか
- まとめ
- おわりに
CESとは

CESはCTA(Consumer Technology Association)が主催する、毎年1月にラスベガスで開催される世界最大級と言える「テクノロジーのショーケース」です。
日本語圏では「せす」と呼ぶ方もいますが、適切な読み方は「しーいーえす」です。
CES - The Most Influential Tech Event in the World
かつては「家電見本市」と称されることが多かったCESですが、昨今のCESは自動運転車をはじめとして「家電」の領域を超えたものが数多く展示されています。主催であるCTAも「家電見本市ではない」と公式に謳っています。

年始にこの先数年のテクノロジーを俯瞰する場としてこれ以上に相応しいものはなく、日本からも多くのテクノロジー系メディアの方が参加しています。会期終了から少し時間が経ち、多くのテクノロジー系メディアでCES関連の記事は出揃った頃合いなので、既に関連記事を読んだ方も多いのではないでしょうか。
CESは主に「展示」と「講演」の2軸で進行しますが、今回は展示のみ参加しました。自身のCES参加は2018年、2019年に続く3回目となり、CES参加歴で言えばまだまだひよっこながら、過去回との差分を俯瞰できるようになってきました。
展示会場について


CESの展示はTech East・Tech West・Tech Southという3つのエリアに大別されます。
特にLAS VEGAS CONVENTION CENTER(LVCC)から成るTech EastとSands Expoを中心とするTech Westにブースが多く集まっています。さらにTech Eastの中心となるLVCCはNorth・Central・Southに大別され、端から端に歩くだけでも一定の時間を要します。
https://www.ces.tech/Show-Floor/Official-Show-Locations.aspx
会期中の4日間という限られた時間の中で、すべてのブースを細かく見るのは不可能に近いので、今回はLVCCとSands Expoに絞って朝から夜まで歩き回りました。日付上は4日間ですが、最終日は昼過ぎから順次各ブースの撤収が始まるので、実質的には3.5日間程度となります。
溢れかえるAR Smart Glassesと勢いの弱まるVR HMD

私が初めて参加したCES 2018では多くのVR HMDが出展されていました。ところがCES 2019ではVR HMDよりもAR Smart Glassesが目立っていました。
CES 2020ではどうだったかと言うと、まずCES 2019で多くの関心を集めたNreal Lightの後を追うように、非常に良く似たメガネ型のデバイスが目立ちました。

そしてVR HMDはかつてほどの勢いを感じられませんでした。もちろん全く展示がなかったわけでもなく、新製品が発表されることもありましたが、AR Smart Glassesの勢いには押されている印象を受けました。

これはVRがある程度の実用段階に入り、ハードウェアそのものよりコンテンツが重要になってきていることを示唆しているものと考えています。
事実AR/VRコーナー以外のブース、例えばLVCC Northにある自動車エリアでは、コンテンツを見せるためのデバイスとしてVR HMDを用いているブースをいくつも目にしました。
Nreal LightとポストNreal Light
CES 2019で話題となりCES2020でも多くの人を集めていたメガネ型デバイスのNreal Lightですが、前述の通り「ポストNreal Light」とでも言うべき、デバイスの形状、プロモーションの打ち方が非常に良く似たメガネ型デバイスをいくつか見かけました。例えばMAD Gaze社のMAD Gaze GLOW、0glasses社のRealX、Pacific Future社のam glassなどが挙げられます。


その多くはスマートフォンと接続するタイプのもので、SLAM 機能もなく、スマートフォンのディスプレイをメガネに拡張するだけのものも多々あります。今後もハードウェア先行でこういったメガネ型デバイスは数多く出てくると考えられますが、大事なのはそのデバイスを使う理由であるコンテンツだと考えています。多くのブースでは「デモ」以上の体験が出来なかったので、次のアクションが気になりました。
突然現れたパナソニック社の眼鏡型VRグラス
AR Smart Glassesが目立った印象のCES2020ですが、決してVR関連の新発表がなかったわけではありません。
例えばLVCC Centralにとても大きなブースを構えていたパナソニック社は、CES初日の1/7に突然「眼鏡型VRグラス」に関するプレスリリースを配信しました。
あくまで「参考出展」ということで、ケースの中に収められ誰もが体験できる状態にはなっていませんでしたが、今回は良い機会に恵まれてデモ機を試せました。

その独特な見た目も相まって「○○○に似ている、いや△△△だ」といった見た目に関する感想が多く散見されましたが、たしかに思い切った見た目だと感じました。
聞くところによるとSoCが内蔵されているので、PCを必要としないスタンドアロンで動作することも想定されているようです。しかし、実働するデモではGeForce RTX 2080 SUPERという高価格帯のGPUを搭載したデスクトップPCとUSB Type-Cで接続する形を採っていました。
接続方法は前述のAR Smart Glasses郡と似ています。大きな違いはHDRで、片目4K・両目8Kの解像度且つ超高精細、そしてパナソニック社の音響ブランドであるテクニクスのイヤホンを使うことで超高音質を実現している点です。
実際に体験したところ、プロトタイプながらたしかに高画質・高音質という謳い文句に異論を挟む余地はありませんでした。あくまで「プロトタイプ」であるということは強調して説明され、発売時期も含めて不確定要素の強いデバイスです。しかし、日本発のハードウェアということもあり、CES 2020全体を通して個人的にとても期待を持ったプロダクトのひとつとなりました。
デルタ航空が示したパラレル リアリティ ディスプレイ
CES 2020ではデルタ航空が航空会社として初めて基調講演とブース出展を果たしました。基調講演の中では公式アプリであるFly DeltaにAR機能が追加される旨の他、「パラレル リアリティ ディスプレイ」という新しいディスプレイの表示方法を提示しました。

パラレル リアリティ ディスプレイは、1つのディスプレイで複数人、それも1人や2人ではなく100人程度に対して、それぞれに合わせた内容を表示できる技術です。
仕組みとしては先ずデモブース入場時に対象者を認識、ブース内に設置されたカメラが対象者をトラッキングし、対象者に合わせた内容を、マルチビュー・ピクセルを用いたディスプレイで表示しています。

この技術はデモのためのものではなく、今年2020年中にデトロイト空港で実運用が開始されるとのことです。
バーチャルヒューマン“Neon”の衝撃
CES 2020において、“色々な意味で”もっとも注目を集めたと言っても過言ではない、そしてXR領域とも関わりが深いと言えるNeonについても触れておきます。

Neon社はSAMSUNG社の研究開発部門であるSTAR Labsを母体とする企業です。企業名と同じNeonという実在する人間と変わらない見た目を持つ“Artificial Human”分かりやすく言うとバーチャルヒューマンを開発しています。
https://www.neon.life/www.neon.life
事前情報として公開された“本物の人間と変わらない見た目”のYouTube動画が話題になり、CES初日からブースにはたくさんの人が訪れ、そのあまりのリアルさに驚愕していました。私自身もCESが始まる前夜、あまりのリアルさにとても興奮したことを覚えています。

そして迎えた当日、YouTubeに公開された動画や、ブースに展示されている“本物の人間と変わらない見た目”のものは紛うことなき人間であり、Neonではないイメージ映像であることが分かりました。これには多くの人が落胆し、騙されたと言う人まで現れました。
私自身も残念な気持ちになったのは事実ですが、実はイメージ映像であることは示されていたので、見せ方の是非は別として「騙す意図はなかった」と認識しています。
一部で疑義を醸している #NEON ですが、ブースで流れている “イメージ動画” ではない AI による “リアルタイムのもの” はこちらです。
— HEAVEN ちゃん (@ikkou) 2020年1月9日
確認したところ服は AI によるジェネレートではなく個々に要デザインとのことでした👖 #CES2020 pic.twitter.com/fI7xdk3aJW
実際にNeonが動いているデモの様子を見ると分かりますが、少なくとも現時点ではYouTube動画やブースに並んでいるほど“本物の人間と変わらない見た目”ではないように見えます。しかし、決してクオリティが低いわけでもなく、今後の開発状況次第ではバーチャルヒューマンとして成立するであろう将来性を感じました。
High-Tech Retailing
XR領域はハードウェアとして分かりやすいVR HMDやARグラスだけに限りません。例えばCES2019から新設されたカテゴリであるHigh-Tech Retailingエリアには、XR領域とも言えるプロダクトが複数ブースを出展していました。

例えば両足を3次元計測するAetrex 社の Albert Scannerはそのひとつです。実際に試してみたところ、わずかな時間で足の3Dデータとともに各種サイズが計測され、そのデータを基にして靴に合わせたインソールを作成して自宅に届けてくれるようでした。(残念ながら日本への発送は実施していませんでした)
Beauty Tech
High-Tech Retailingコーナーに出展しているブースは10数程度でしたが、他にも商品を3D化するソリューションや、スマートミラーを展開する企業が出展していました。また、Beauty Techでもあり、AR × メイクでは老舗とも言えるYouCam Makeupが比較的大きなブースを構えていました。

High-Tech Retailingコーナー以外では、アプリと連動するインスタントジェルネイルを提供するO'2NAILSブースが昨年に引き続き賑わっていました。

また、CES 2020で初出展となるインスタントタトゥーマシンを提供するPrinkerブースにもとても多くの人が訪れて試していました。

Prinkerはアプリで選んだ柄を一瞬でプリントできるインスタントタトゥーマシンです。水溶性のインクを使っていて、お風呂で簡単に洗い流せるので、例えばフェスなどのイベントで使うことが想定されています。実際に試しましたが、驚くほど簡単にプリントできました。
O'2NAILSもそうですが、こういった実体験可能なデモを設けているブースは軒並み盛り上がっている印象を受けました。
なぜCESに参加するのか

ここまで現地で見聞きしたものをいくつか紹介してきましたが、CESに関する情報はテクノロジー系メディアを中心として、大半のことはインターネット経由で知り得ることができます。これがテクノロジー系メディアのライターであれば現地に赴き、記事を書くこと自体が仕事となりますが、ライターではない私がなぜ時間とお金をかけて現地に行くのでしょうか。
これは先ずXR領域において『百聞は一“体験”に如かず』という考え方があるからです。
つまり、「百聞は一見にしかず」という言葉以上に、実際に自分の目で見て身を以て体験することが重要だと言えます。前評判では期待できなかったものが実は素晴らしいものである可能性もありますし、その逆もあり得ます。まだ“当たり前”からは少し遠い技術であるがゆえ、しっかりと説明責任を果たせるよう、他人の意見だけではなく、自分自身で語れる状態であることを大切にしています。
XR領域だけを目的とするのであれば、CESよりもMWC(Mobile World Congress)や、より専門性の高いAWE(Augmented World Expo)などが適切です。しかしXRは手段のひとつでしかなく、テクノロジー全体を見渡す意味ではCESに参加する意味があり、だからこそ継続的に参加して差分を理解して未来を予測することも意味があると考えています。
もちろん、良いデバイスや良いソリューションがあれば、どこよりも早くアライアンスを結んで事業に繋げるといった展示会での一般的な目的もあります。実際、日本から来ている方の一部は商談目的やバイヤーの方です。
まとめ
写真だけでも32,000枚近く撮影しているので、そのすべてを紹介することは出来ませんが、特にXR領域で気になった“一部”を紹介しました。
現地参加は3年目となるCESでしたが、初のCES参加時に得られたような感動はもうだいぶ薄くなりました。
そしてXR領域だけで言えば「爆発的な変化」というよりも「順当な変化」を感じる回となりました。テクノロジー全体で言えば、例年大きなブースで出展していた企業が今年は出展しなかったなど、本記事で取り上げていないが大きく変化した部分もありますし。逆にNeonやデルタ航空のように、初出展で挑戦的な試みを実施する企業も出てきました。
今はまだ目新しく映るXR領域も、いずれは社会に融け込んで当たり前のものになると考えています。それがいつなのか分かりませんが、この技術領域を推す身としては、テクノロジーの潮流を追いながら適切なタイミングで技術を生かすことを図っていきたいと改めて胸に誓いました。
おわりに
今回のCESは、福利厚生のひとつである「セミナー参加制度」を利用して参加しました。特に海外出張ともなると渡航費・宿泊費だけで相応の金額が必要となるので、こうして自分の目で見る機会が提供されるのは本当に有り難いことです。前述の通りXR領域とは「百聞は一体験に如かず」なので、ここで得た知見をうまく業務に生かしていきたい次第です。
最後に、ZOZOテクノロジーズでは、一緒にサービスを作り上げてくれる仲間を募集中です。ご興味のある方は、以下のリンクからぜひご応募ください!
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特にXR × ファッション領域での「新規事業」に興味のある方は、一度お話しましょう:)
現場からは以上です!