NRF 2025 Retail's Big Show 参加レポート

NRF 2025 Retail's Big Show 参加レポート

はじめに

こんにちは、ZOZOMO部の中島です。普段はFulfillment by ZOZOZOZOMO店舗在庫取り置きというサービスの開発を担当しています。

2025年1月12日から14日の3日間にかけてニューヨークで開催された「NRF 2025: Retail's Big Show」に現地参加してきました。私個人としては、昨年に引き続き2回目の参加になります。

前半はNRF Retail's Big Showの概要と関連する情報、後半はセッションの内容やExpoで気になったものを中心にお伝えします。NRF 2025全体の概要については、NRF 2025 Event Recapなどをご覧ください。

目次

NRF Retail's Big Showとは

NRF会場のエントランス

NRF Retail's Big Showは、毎年1月にNRF(National Retail Federation)が主催する、世界最大級の小売業界向け展示会です。2025年は1月12日から14日までニューヨークで開催され、175のセッションが行われ、1,000社以上の企業が出展しました。
毎年、NRF Retail's Big Showにはテーマが設定されており、2025年のテーマは「GAME CHANGER」でした。

今年のテーマ:GAME CHANGER

今回も、公式サイトではおすすめホテルの紹介や、イベントをより快適に楽しむための「NRF 2025アプリ」が提供されました。私自身もアプリを活用し、事前に見たいセッションを登録しました。当日はスケジュール管理やセッション開始時間のチェックに役立てました。

NRF 2025アプリ

会場の概要

NRF 2025は、2024年と同様にJacob K. Javits Convention Centerで開催されました。

Jacob K. Javits Convention Centerの外観

2階がメインエントランスになっており、カンファレンスパス購入時に発行される2次元コードを使って受付をします。

NRF 2025の受付

NRF 2025に参加するためのカンファレンスパスは、All-Access PassとExpo Passの2種類があります。Expo PassだとExpo会場のみ参加可能で、Keynoteセッションなどが開催される会場に入るには、All-Access Passが必要になります。
前回は、All-Access Passの値段が時期によっては結構差がありましたが、今回はあまり時期による変動が大きくなかったです。ただ、早ければ早いほど安く購入できますので、次回参加する予定の方は、夏くらいから動き始めると最安で購入できると思います。ちなみに、受付後にバッジをもらいますが、そのバッジを紛失すると再発行にカンファレンスパス購入時と同じ金額が必要になります。そのため、受付のときに絶対なくさないように念押しされてバッジを渡されました。

早朝はDonuts Dunkというものがあり、ドーナツなど軽食を食べながらネットワーキングできる時間が設けられています。今年も数社、日本企業の方とコミュニケーションを取ることができました。

Donuts Dunkで提供されるドーナツや果物

セッション

NRFでのセッションは、Javits Centerの1階、3階、4階、5階の各会場で実施されます。参加パスの種類によってアクセスできるセッションが異なります。All-Access Passを持っていればすべてのセッションを視聴できますが、Expo Passの場合はExpoが行われる1階と3階のセッションのみに限られます。

SAP Theatre

5階フロア全体を使用するSAP Theatreステージは、最も大きな会場となっており、ここでKeynoteセッションが開催されます。各ステージにはスポンサー名が付いており、前回と名称が変わらなかったため、毎年同じスポンサーがついているのかもしれないです。

オープニングセッション

オープニングセッション会場

オープニングセッションでは、Walmart U.S.のPresident and CEOであるJohn Furner氏と、NVIDIAのVice President and General Manager, Retail & CPGであるAzita Martin氏の対談が行われました。NRFは小売業向けの展示会ですので、例年だと小売企業の幹部がオープニングセッションに登壇していました。今回はNVIDIAが登壇したことからも、AIに対する業界の関心が非常に高まっていることがうかがえます。

このセッションでは、以下のようなテーマが取り上げられました。

  • NRF 2025イベントの紹介
  • 小売業におけるAIの活用事例
  • Physical AIとロボット訓練
  • キャリアに関するアドバイスと業界の展望

それぞれの内容について、以下で詳しく紹介します。

NRF 2025イベントの紹介

セッションの冒頭では、NRFイベントの紹介が行われました。NRFは1911年に始まり、114年の歴史を誇るイベントであり、現在では40,000人の参加者、6,200のブランド、450人のスピーカー、175のセッションを擁する大規模イベントへと成長しています。また、ニューヨーク市には約7,500万ドルの経済的影響をもたらしているとのことです。さらに、小売業界の成長率についても言及され、2024年の成長率は2.5%から3.5%の範囲で予測されています。

keynote

小売業におけるAIの活用事例

小売業界におけるAIの導入事例として、以下の企業の取り組みが紹介されました。

  • L'Oreal:マーケティングの分野で生成AIを活用し、コンテンツ制作や顧客対応を強化。
  • Walmart:膨大なデータを処理し、SKUと店舗の何億もの組み合わせを毎週予測。需要予測の精度向上に貢献。
  • Lowe's:1,700店舗でデジタルツインを導入し、店舗レイアウトの最適化と業務効率化を推進。

これらの事例からも、小売業界におけるAI活用の広がりと、データ分析やシミュレーション技術の進化がうかがえます。
Keynoteで紹介されたAI活用の動画はこちらになります。

www.youtube.com

Physical AIとロボット訓練

次に、Physical AIの概念とその応用について紹介がありました。Physical AIについて初めて聞いたため調べたところ、NVIDIAの公式サイトに説明がありました。要約すると、「現実世界の空間や物理法則を認識・理解し、適切な判断を下しながら自律的に行動できるAI」と定義されています。

Keynoteの紹介では、倉庫や配送センターのデジタルツインを作成し、Physical AIを活用することで、現実世界では想定できない数多くのシナリオをシミュレーションできるようになるとのことでした。物理法則を考慮したシミュレーションデータを利用することで、ロボットの学習が効率的になり、より高度なAIロボットの開発が期待されます。

この技術によって、物流・倉庫業務におけるAIの応用範囲が拡大し、業務効率の向上とコスト削減の可能性があります。特に、デジタルツイン技術と組み合わせることで、よりリアルなシミュレーションが可能になり、試行錯誤のコストを削減しながらロボットの最適化が実現できます。

キャリアに関するアドバイスと業界の展望

セッションの最後には、キャリア開発に関するアドバイスが語られました。特に以下の点が強調されました。

  • AI技術の活用が今後ますます重要になること
  • 継続的な学習の必要性
  • キャリア開発におけるリスクを計画的に取ること

これからの小売業界では、AI技術が不可欠な要素となるため、企業だけでなく個人のスキルアップも求められる時代になっていくでしょう。

オープニングセッションまとめ

NRF 2025のオープニングセッションでは、小売業界におけるAIの活用がいかに重要であるかが強調されました。WalmartやL'Oreal、Lowe'sなどの企業がすでにAIを活用して成果を上げていることからも、この分野の進化が加速していることが分かります。また、Physical AIとロボット訓練の進展により、物流業界における自動化がさらに進んでいくかもしれません。

AIが小売業界に与える影響は今後も大きくなると予想されます。これに伴い、業界関係者はAI技術への理解を深め、積極的に活用していくことが求められそうです。

Expo

Expo会場

Javits Center内の1階と3階が主なExpo会場になっていました。Expo会場は、多くの企業がブースを出展し、最新のテクノロジーやサービスを紹介しています。また、各ブースではデモンストレーションやプレゼンテーションが行われており、訪れた参加者に直接情報を提供していました。

1階、3階、RIVER PAVILIONのフロアマップ

ブースの中でも、RIVER PAVILION内の「NRF 2025 Innovators Showcase」エリアや、1階の「Startup Hub」エリアに多くのスタートアップ企業が集まっています。ブースの回り方として、私はまず最新の技術やトレンドを確認するためにこれらのエリアを巡り、その後、3階にある大手企業のブースを訪れる流れでExpoを回りました。

生成AI

前回NRFに参加した際は、生成AIについて取り組み始めているという温度感だったものが、今回のNRFでは生成AIに関連しないものを探すほうが難しいくらいAIに溢れていました。また、生成AIに関してはスタートアップより、大手企業の方が網羅的にカバーしている印象が強かったです。

AWS展示、左からDiscover、Find、Purchase、Post-Purchaseが表現されている

上記はAWSのブース展示です。Discover、Find、Purchase、Post-Purchaseというカスタマージャーニーがモデルで表現されています。このカスタマージャーニーに沿ったパーソナライゼーションをAWSのサービスを使って提供する仕組みについて紹介されていました。
最初に、対象の製品とブランドやキャンペーンのテーマを決めると、自動的に、各フェーズで顧客を引き付けるための推奨事項を提供できるとのことでした。
具体的には、ユーザーごとにパーソナライズされた画像やメールのコピー文の作成や、購入商品に合わせたレコメンデーション、バーチャルアシスタントでの購入後のユーザーサポートなどができるとのことです。

左:3Dホログラムでの商品表示、右:AIアシスタントが商品説明

他にも、以前見たことがあったProtoという製品も進化していました。大きな3Dホログラムのディスプレイというだけではなく、生成AIを活用して商品の説明を音声で提供する機能が追加されていました。さらに、英語だけでなく日本語にも対応しており、言語の壁を超えて情報を伝えられる点は、生成AIならではの進化だと感じました。

気になったデバイス

Startup Hubのブースを回っている中で、特に印象に残ったデバイスを2つ紹介します。

ORA Sphere

まず1つ目は、球体のタッチ操作が可能なディスプレイORA Sphereです。

ORA Sphereの展示

このデバイスの特徴は、360度に映像を投影できるだけでなく、タッチ操作も可能な点です。球体ディスプレイ自体が珍しいですが、触れて操作できるのは新しい体験でした。主な用途としては、地球や惑星の表示などが想定されているようです。球体×ディスプレイ×タッチ操作という組み合わせがユニークで、今後の活用シーンに期待したいです。

iRomaScents

次に紹介するのは、iRomaScentsという香りを提供するデバイスです。

iRomaScents本体

このデバイスには45種類の香りをセット可能で、ユーザーが選択した香りをサンプルとして提供できます。さらに、ウィザード形式で質問に答えることで、ユーザーに最適な香水をレコメンドする機能も備わっていました。

iRomaScents画面

香りのパーソナライズが進化することで、店舗やECでの香水選びの体験が変わる可能性を感じました。

あなたはどのGame Changer?

イベント会場を回っていると、American Expressのブースで「あなたはどのGame Changer?」という診断ゲームが実施されていたので、試してみました。性格診断のような質問に答えていくと、結果はTech Expertでした。
ちなみに、診断では以下のようなタイプに分類されるようです。

  • Operations Ace
  • Tech Expert
  • Marketing Genius
  • Digital Professional
  • Gen AI Specialist

「Gen AI Specialist」が診断結果に含まれることが、今回のNRFの特徴だと感じました。

American ExpressのGame Changer診断

おわりに

ホテルの近くにあったエンパイア・ステート・ビル

今年のテーマが「GAME CHANGER」だったため、昨年と比べてどのような変化があるのかを意識しながら参加しました。
2024年、2025年と2年連続で参加しましたが、昨年は一部の企業が生成AIを使い始めた段階だったのに対し、今年はほぼすべての企業が生成AIを活用し、その成果も見え始めている印象を受けました。ただし、生成AIによる劇的な変化はまだ先の段階と感じており、来年以降の進化に期待しています。

今回のNRF視察は、開発部門の福利厚生である「セミナー・カンファレンス参加支援制度」を利用しての参加となります。

NRFは技術カンファレンスではありませんが、小売業におけるテクノロジー活用の最新事例を学べる貴重な機会です。技術者としてこうしたイベントに参加することで得られるものは大きいと感じています。また、NRF Retail’s Big Showはこれまでのニューヨークとシンガポールに加え、新たにパリでの開催も発表されていましたので、ご興味のある方はぜひ参加してみてください。

ZOZOでは、各種エンジニアを採用中です。ご興味のある方は以下のリンクからご応募ください。

corp.zozo.com

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

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