
はじめに
こんにちは、ZOZOMO部FBZブロックの杉田です。2025年7月3日・4日の2日間、JPタワーホール&カンファレンスにて「開発生産性Conference 2025」が開催されました。本記事では、会場や各ブースの様子に加え、特に印象に残ったセッションについてご紹介します。
開発生産性Conference 2025とは
本カンファレンスは、生成AIとの協働が不可欠な時代に、いかに開発生産性に取り組み事業価値を高めていくかをテーマに開催されました。3回目を迎える今年は、来場者数が3000人を超える盛況ぶりで、開発生産性への関心の高さがうかがえます。
会場の様子
会場は東京駅直結のJPタワーホール&カンファレンスでした。


セッションの合間には多くの参加者がスポンサーブースで情報収集したり、活発に交流したりしていました。皆さん、開発生産性に関する話題で盛り上がっている様子が印象的でした。


スポンサーブースでは参加者向けのアンケートも実施されており、イベント参加者の傾向が見て取れて興味深かったので、アンケート結果をいくつか抜粋してご紹介したいと思います。

「あなたのチームの開発生産性を支えているもの」というテーマに対して、「Claude CodeなどのコーディングAI」や「ペアプロ」「チームの協力体制」といった実践的な回答が多く寄せられていました。その中に「愛」や「強い心」といった精神的な支えを挙げるユニークな回答も見られたのが印象的でした。

「開発生産性お悩みランキングと実践知」というテーマで、多くの開発者が共感する悩みと、実際に試して効果のあった取り組みが紹介されていました。最も共感を集めた悩みは「技術的負債の返済と新機能開発とのバランス」で、これに対し、キーノートに登壇されたケント・ベック氏の著書「Tidy First?」の内容を実践しているというメモもあり、大変参考になりました。

AIコーディングの利用状況を見ると、ほとんどの人が日常的に活用しており、その効果を実感していることが分かる結果となっていました。
セッション紹介
ここからは気になったセッションの紹介をします。
開発生産性測定のトレードオフ 「グッドハートの法則」はもっと悲観的に捉えるべきだった

このセッションを聞いて、ソフトウェア開発の「生産性」という言葉の裏に潜む奥深さを改めて感じました。特に印象的だったのは、表題にも含まれている「指標が目標になると、それはもはや良い指標ではなくなる」というグッドハートの法則です。

開発者のプルリクエスト数やコード行数といった数値目標がいかにシステムを歪ませ、かえって生産性を損なうかという具体例は身につまされる思いでした。AIの登場がコーディング効率を劇的に高める一方で、従来の測定アプローチがこの歪みをさらに悪化させる可能性があるという指摘は、これからの開発現場を考える上で非常に重要だと感じました。
ケント・ベック氏が提唱する「価値のパス」の概念は「顧客の振る舞いの変化(アウトカム)」や「会社への収益貢献(インパクト)」といった、より後期の段階で行うべきとあり、本質的な価値追求の重要性を教えてくれました。

リーダーとして「データで気づきを促す」ことの重要性や、若手育成においてアウトプットの量ではなく「学び」に焦点を当てるべきという示唆は、AI時代におけるマネジメントや人材育成に対する新たな視点を与えてくれました。単なる数字の追求ではなく、真の価値とは何か、それをどう育んでいくべきかを深く考えるきっかけとなる非常に示唆に富んだセッションでした。
AIを前提とした開発プロセスとマネジメントの変革 - 開発生産性+2000%達成に向けた取り組み
このセッションでは、AIを前提としたプロダクト開発を実践することで生産性を爆発的に向上させた事例について紹介されていました。
多くの組織では専門領域ごとの分業が当たり前ですが、このセッションではその分業こそがコミュニケーションの肥大化を生み、情報ロスや開発速度の低下を引き起こすボトルネックだと指摘していました。企画と開発、PMとエンジニアといった役割の間で生まれる無数のやり取りが、価値提供のスピードを鈍らせているのです。

この壁を破壊するアプローチとして「プロダクト志向 × 多能工」が紹介されていました。

これは、以下の2つの要素を掛け合わせた考え方です。
- プロダクト志向:「なぜ作るのか(Why)」という顧客価値に常に立ち返る思考
- 多能工: 一人の担当者が、課題発見(Why)から実装(How)までを一気通貫で担うスキル
この一人で完結させる働き方を、AIが強力にサポートします。AIは実装や資料作成といった作業を肩代わりし、スキルギャップを埋めてくれるのです。まるでジュニアメンバーのようにAIをマネジメントすることで、生み出せる価値は飛躍的に高まるとのことです。

実際に、あるPMの方が事業開発からリリース・運用まで全ての工程を一人で担ったというエピソードも紹介されました。

その際に利用したAIの膨大なトークン数を示したダッシュボードも公開され、インパクトがありました。

しかし、これら一連の話には重要な示唆も含まれていました。顧客が本当に困っていること、すなわち「Why」を深く探求すること、そして中長期的な運用を見据えた品質を担保することは、やはり人間にしかできないという事実です。
AIに「How(どう作るか)」を任せ人間は「Why(なぜ作るか)」に深く寄り添う、この役割分担こそが、これからの時代に圧倒的な開発生産性を生み出す鍵になっていくのだろうと感じました。
開発生産性を組織全体の「生産性」へ! 部門間連携の壁を越える実践的ステップ
このセッションでは、開発生産性とビジネス指標の乖離を解消するための具体的な実践ステップが紹介されました。
- 部分言語の理解: 各部門のKPIを深く理解し、エンジニアの貢献を「誰が・何を行い・どのような結果をもたらしたか」という形で具体的に言語化する
- 共通言語の設計: 開発チームの活動と経営指標を相関マップで関連付け、職能を横断して理解できる「共通言語」を設計する
- 指標化: 設計した共通言語に基づき、工数やリードタイムといった課題を深掘りするための具体的な指標を作成し、継続的な改善を促す
結論として、生産性指標は一度作成して終わりではなく、対話を通じて改善し続ける「生きた言語」として育てることで、組織全体の生産性向上につながると述べられていました。このセッションから、単にFour Keysのような一般的な指標を追い求めるのではなく、まずは自社の状況に合わせた「共通言語」を設計し、そこから課題の原因を深掘りできる指標を作ること。そして、スモールスタートで導入し、フィードバックを得ながら改善サイクルを回していくことの重要性を学びました。
「開発生産性」ではなく、事業の投資対効果に向き合う「事業生産性」へ
従来の開発生産性はタスクの消化量で見られがちでしたが、このセッションではROIC(投下資本利益率)を事業生産性として捉える視点で触れており、多くの学びや気づきがありました。

中でも、開発者一人ひとりが日々の業務と会社の利益(売上増加やコスト削減)との繋がりを意識し、ROIC向上に貢献すべきという話が特に印象に残りました。ROIC向上に貢献するための具体的な手段として、生成AIの活用が大きく貢献するという外部機関のレポートは興味深かったです。

このセッションでは、開発とビジネスが一体となって価値を創造する重要性を改めて学ぶ良い機会となりました。この学びを、今後の業務に活かしていきたいと思います。
エンジニアが主体的にビジネスに貢献する〜開発現場からの変革
このセッションは、株式会社一休CTOの伊藤直也氏と、ファインディ株式会社代表の山田裕一朗氏による対談形式で行われました。
対談はいくつかのテーマをもとに進行しましたが、一貫して語られたのはエンジニアの本当の価値は技術力そのものではなく、顧客の課題をどれだけ解決できたかで測られるというものでした。私たちエンジニアは、つい「何が作れるか」という技術を起点に考えがちです。しかし、顧客が本当に困っていることは、現場の一次情報に触れなければ本質的には理解できません。そのための実践例として、一休ではエンジニアが営業に同行し、顧客のリアルな声を聞くことを実践しているそうです。これにより、開発すべきプロダクトの解像度が飛躍的に高まり、ビジネスへの貢献度が大きく変わるといいます。
従来のように、良いコードを書くことや設計するスキルはもちろん重要です。しかし、これからの時代は技術領域に留まらずビジネスの壁を越え、主体的に課題を発見しようと現場に目を向ける姿勢こそが、組織の中で価値を発揮する秘訣なのだと思います。
さいごに
今回のカンファレンスに参加して、多くのセッションで語られていた「開発生産性は、事業価値への貢献と切り離せない」という当たり前のようでいて、つい見失いがちな視点について気づくことができました。私たちエンジニアは、日々の業務でついコードを書く速さや量に目を向けてしまいがちです。でも本当に大切なのは、その活動がいかにして顧客に価値を届け、ビジネスの成長に繋がっているのかを考え抜くことなのだと、改めて気づかされました。
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