はじめに
2024年10月15日に『ZOZOMETRY』という計測技術を活用したサービスを正式ローンチしました。今回はZOZOMETRYのサービス概要、計測技術および計測精度について紹介します。
ZOZOMETRYとは
ZOZOMETRYとは、事業者の採寸業務を効率化し、採寸が必要な服の売上拡大やコスト削減に貢献する法人向けのサービスです。以前、ZOZOTOWNで提供していた個人向けのサービスでは、ZOZOSUITを着用しての計測が必須でしたが、ZOZOMETRYではZOZOSUITあり、ZOZOSUITなしの異なる計測方法が提供されています。
計測技術について
ZOZO New Zealandのノースと新事業推進本部の西澤です。ZOZOMETRYの計測技術を説明するにあたり、まずはZOZOSUITのローンチ以来、ZOZOの計測サービスがどのように進化してきたかを解説します。
計測サービスの進化
ZOZOSUITは当初、ZOZOプライベートブランドのサイズ推奨用技術として2018年にローンチしました。2020年にはデザインとアルゴリズムをアップグレードしたZOZOSUIT2(現在はZOZOSUITと名称変更)として、パートナー企業募集を実施しました。ZOZOSUITに続き、2019年にはネットでシューズ購入時のサイズ課題を解消させるZOZOMATをローンチしました。その後、ZOZOSUITで使用されている計測技術と、ZOZOMATで足形状の特定に使われるシルエットフィッティング技術の延長として開発されたのが、「ZOZOSUITなし計測」と呼ばれる最新の計測技術となっています。
ZOZOSUITを使った計測は幅広い分野で役立つことが証明され、医療、アパレル、フィットネス、ゲームなど、様々な業界におけるZOZOSUITの応用に関して、多くのクライアントと関わってきました。
また、外部の研究機関との取り組みにより、脊柱側弯症の検出やリンパ浮腫の評価など、今までになかったZOZOSUIT関連プロジェクトの出発点となりました。そのような様々な業界との取り組みの中で、多くの事業者が単に顧客の体をスキャンするだけにとどまらない多様なニーズを持っていることが明らかになりました。
この課題に対して、ZOZOMETRYというBtoBプラットフォームを通じて、事業者が独自の測定ポイントを定義できるようにしました。これにより、業界ごとの専門知識に支えられながら、ビジネスニーズに合わせてカスタマイズできる測定技術を体験することが可能となります。
ZOZOMETRYの計測技術の概要
ZOZOMETRYでは、用途に合わせて「ZOZOSUIT着用あり」または「ZOZOSUIT着用なし」の2つの測定モードを専用アプリで選択できます。
ZOZOSUITは12種類のサイズ展開があり、約2万個の特徴的なフィデューシャルマーカーを使用して体型の3Dモデルを生成します。特殊なアルゴリズムによって高精度な身体測定が可能です。
ZOZOSUITを用いた計測は高精度であるものの、計測方法の手間とZOZOSUIT自体の配送までの待ち時間が課題点となっていました。そのため、ハンズフリーの計測技術である「ZOZOSUITSなし計測」を開発しました。2年間に及んだ開発期間中には、最大450件のZOZOSUITデータと、近年蓄積されたZOZOSUITなし計測のプロトタイプからの追加データ200件の分析が行われました。
ZOZOSUITなし計測を実現させる上で特徴的な問題となったのは、身体上のフィデューシャルマーカーを検出できるZOZOSUITとは異なり、身体を特定するための基準点がなかったことでした。解決策となったのは、ZOZOMATのシルエットフィッティング技術の応用でした。ZOZOSUITの計測技術を活用しながら、ZOZOSUITがない状態を補正します。
様々な背景や肌の色調を考慮できるシルエット検出機能を取り入れることで、ZOZOSUITなしの場合も体型の3Dモデルを構築することが可能となりました。もちろん、計測を成功させるには、iPhoneの前面カメラにアクセスできることと、(正確な測定を確実にするため)ぴったりとした服装を着用することが条件となっています。
ZOZOSUITなし計測の機能は2024年1月に初めてボディマネジメントサービス「ZOZOFIT」に統合されました(現在は米国でのみ利用可能)。以来、ZOZOFITは毎日約800件の計測データを処理しており、これまでに実施された計測データの総数は約5万件となっています。このサービスは、独自のビジネスニーズに合わせて139箇所から測定ポイントを定義できます。今後はZOZOMETRYの高精度なZOZOSUIT計測、または手軽なZOZOSUITなし計測を通して、カスタマイズ可能な身体測定サービスをぜひ世の中の企業様にご体験いただければと考えています。
このサービスは、各企業の特定のニーズに応じて柔軟に対応可能です。ぜひ、これらのサービスを世の中の企業様にご体験いただければと考えています。
ZOZOMETRYの計測精度について
計測プラットフォーム開発本部データ開発ブロックの嶺村と松山です。このセクションではZOZOMETRYのZOZOSUITなし計測およびZOZOSUITあり計測の精度についてご説明します。スキャン後に生成される人体の3Dモデルの精度と、他社の類似サービスとの比較結果についてご紹介します。
3Dモデルの生成精度について
検証内容
3Dモデルの生成精度については、ベンチマークと比較した正確性の精度(accuracy)と、同じ計測対象を複数回計測した場合のばらつきの精度(precision)の検証観点があります。今回の記事では前者の観点での検証結果についてご紹介します。
検証方法としては、第三者メーカー製の3Dボディスキャナー(以下、3Dボディスキャナー)の3Dモデルをベンチマークとし、ZOZOSUITなし計測またはZOZOSUITあり計測で生成された3Dモデルとの比較誤差を算出しています。3Dモデル同士の比較誤差の算出方法は以下の通りです。
- 人間型のマネキンや人体など、共通の計測対象をZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測および3Dボディスキャナーで計測し、3Dモデルを生成します。
- 3Dモデル同士を直接比較する前に、ZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測および3Dボディスキャナーの各モデルを移動および回転させ位置合わせします。各計測ツールによって生成された3Dモデルで姿勢(背中の曲がり方や腕、脚の開き具合など)が微妙に異なる可能性があるため、事前にこの方法で3Dモデル同士の姿勢を可能な限り一致させます。
- ZOZOSUITなし計測またはZOZOSUITあり計測で生成された3Dモデルの各頂点に対して、3Dボディスキャナーで生成された3Dモデルへの最短の垂直距離を計測します。両者の距離は正の値になる(頂点が外側に位置する場合)ことも、負の値になる(頂点が内側に位置する場合)こともあります。弊社の検証ではいずれのケースでも距離の絶対値を『誤差』として算出しています。この方法で3Dメッシュ全体の頂点の距離を計算し、その平均値を『平均誤差』として計算します。
上記の計算方法で計算したZOZOSUITあり計測およびZOZOSUITなし計測の平均誤差は以下の通りです。
- ZOZOSUITなし計測:平均誤差10mm以内
- ZOZOSUITあり計測:平均誤差3.7mm以内
スマートフォンアプリを活用したツールでありながら、ZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測のいずれも3Dボディスキャナーの計測結果に近い精度で3Dモデルを生成できています1。また、ZOZOSUITあり計測ではより3Dボディスキャナーに近い高精度な3Dモデル生成が可能です。
他社サービスとの比較
検証の概要
ZOZOMETRYと類似した人体計測を提供している他社サービスとの精度比較の結果についてもご紹介します。他社サービスからは3Dモデルへのアクセスが難しかったため、先述の3D同士の比較とは異なり、手計測(以下、ハンドメジャーと呼称)との比較検証を実施しました。検証内容の詳細と検証結果について記載していきます。
ハンドメジャーについて
弊社には、外部の研究機関にて身体計測を専門とする研究者の先生から、ISO規格で定められた国際標準のハンドメジャーの計測方法を学んだ専任のチームが存在します。この専任チームは、プロダクトの精度検証のために定期的にハンドメジャーを実施しているプロフェッショナルチームです。各計測ツールで算出された計測値と比較する正解値としては、このチームで行ったハンドメジャーの値を利用しています。
他社サービスについて
本記事では比較対象として、ZOZOMETRYと同様に携帯端末によりスキャンを行い身体の各箇所の計測値を算出しているA社(仮称)のサービスを取り上げます。A社の公開している計測箇所の一部の定義がZOZOMETRYと同様にISO規格に準拠しているため、同じ定義の計測箇所で比較検証を実施しました。
検証対象データについて
本検証については、以下のデータを収集して比較しています。
- データ数
- 42件の計測データ(ZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測、A社サービスで計測したデータ数がそれぞれ42件あります)。いずれも日本国内に在住している被検者を対象に計測。
- 対象者の体形レンジ
- 被験者の身長レンジ: 148cm ~ 186cm
- 被験者のBMIレンジ: 17.3 ~ 41
- 計測環境
- ZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測ともに照明、背景について当社の想定する理想的な撮影環境下において計測を実施しています。
- A社サービスについては、サービス内で表示される注意事項に遵守した環境で計測を実施しています。
計測誤差の算出方法
ZOZOスタッフの計測した各部位のハンドメジャーの値と比較して、ZOZOSUITなし計測、ZOZOSUITあり計測、A社サービスの計測値が相対値で何パーセントずれているかを計算しています。今回対象としたすべてのスキャンデータにおいて、各計測箇所における誤差の平均値および標準偏差を集計しました。
計測精度の比較結果
※計測箇所の名称はZOZOMETRYサービス内の呼称に準拠
傾向としては以下のようになりました。
- 平均誤差で見ると、どの計測箇所もZOZOSUITあり計測の精度が最も誤差が小さい結果となりました。特にA社サービスと比較すると、計測箇所によっては半分または三分の一以下に誤差を抑えられています。標準偏差の値もZOZOSUITあり計測の結果が最も小さくなるケースが多く、全体的に誤差が小さく抑えられていることがわかります。
- ZOZOSUITなし計測での結果については、ZOZOSUITあり計測の精度には及ばないものの、A社サービスと比較して平均誤差を小さく抑えられています。ZOZOSUITなし計測の標準偏差についても同様に、ZOZOSUITあり計測よりはばらつきが出るものの、A社サービスとの比較ではどの計測箇所においてもばらつきが少ない結果でした。
以上の傾向から、ZOZOSUITあり計測、ZOZOSUITなし計測ともに今回取り上げた計測箇所についてはA社サービスより高精度な計測結果が期待できると考えられます。また、より高い精度が求められるケースにおいては、ZOZOSUITあり計測での計測が望ましいといえます。
なお、正式ローンチ以前よりオーダーメイドバイクスーツ制作のためZOZOMETRYを導入いただいていた南海部品株式会社様からも、計測精度の高さについてはコメントをいただいています。ZOZOMETRY申し込みサイトに掲載されている導入事例の記事もぜひご参照ください。
今回の検証では、A社のサービスと定義が共通している計測箇所4か所での比較をしました。ZOZOMETRYの正式ローンチ時点では、この4か所を含めて最大139箇所の計測が可能(10月15日現在)で、今後も新たな計測箇所が随時追加されていく予定です。
まとめ
本記事ではZOZOSUITがこれまでどのように使用されZOZOMETRYの開発に至ったのか、またその計測精度について紹介しました。また他にもZOZOMETRYのシステムについていくつか記事を執筆しています。バックエンドなどのシステムについて詳しく知りたい方は、ぜひそちらも合わせてご確認ください。
ZOZOでは、一緒にサービスを作り上げてくれる方を募集中です。ご興味のある方は、以下のリンクからぜひご応募ください。
- 本検証に利用した3Dボディスキャナーの計測精度は±0.5%の公称誤差(1000mmの周囲長に対し±5mmの計測誤差が出る精度)↩