ZOZOテクノロジーズの2020年の振り返りと現状

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こんにちは、ZOZOテクノロジーズ CTOの今村(@kyuns)です。この記事はZOZOテクノロジーズ Advent Calendar 2020 #3の25日目の記事になります。今年はZOZOテクノロジーズとして4つのアドベントカレンダー、全100個の記事がありますので、ぜひご覧ください。ちなみに前日の記事は@sashihara_jpの「コロナ禍の中のリモートワークでの弊社各チームのマネジメントの工夫について」でした。

CTOとしての2年半の取り組みに関しては、先日公開した記事でも紹介していますので、そちらもご覧ください。 note.com

ちなみに、毎年アドベントカレンダーの25日目にZOZOテクノロジーズの1年を僕がまとめて記事にする、というのがアドベントカレンダーの恒例となっていたのですが、すでに今年は上記noteにて、色々な取り組みを紹介させていただいたので、今回この記事では上記では紹介できなかった2020年の変化にフォーカスして、プロジェクトの進捗や組織の変化についてお伝えしたいと思います。

会社の状況

ヤフーとのPMI(Post Merger Integration)

昨年の2019年まとめブログでも紹介したように、Zホールディングス(以降、ZHD)によるTOBが成立し、ZOZOはZHDの子会社となりました。

また、今までZOZOの代表を務めていた前澤が引退、澤田社長の新体制になり新しいZOZOの歴史がはじまった2020年でした。買収の大きな目的にも両社でシナジーを生んでいくということが、重要となっていたため、2020年はZHD・ヤフーとZOZOとのシナジーを少しずつ模索していく1年でした。

ヤフーとの取り組み

PayPayモール ZOZOTOWN

2019年12月には、PayPayモールの中にZOZOTOWNがオープンしました。

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一見、「同じものが買えるのになぜPayPayモールに出店?」と思うかもしれませんが、ヤフーとZOZOTOWNでは、そもそも存在するユーザー層が違うため、我々としては新しいユーザーへのリーチが望めます。プロジェクト自体もヤフーと初の共同プロジェクトということもあり、お互いに尽力してかなり短い期間で実現することができ、両社の仲が深まった案件でした。こちらも順調に売上が伸びてきています。

PayPay連携

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ZOZOTOWNでPayPay決済が利用できるようになりました。導入直後から決済手段として選ばれており、PayPayの人気の高さが伺えます。

検索連携

ZOZOTOWNの大規模なデータや行動ログを活用して、キーワード検索時のサジェストや検索結果の改善を進めました。 こちらの取り組みの一環として、ヤフーと共同で機械学習を用いた検索結果の改善も進めています。 また、ヤフーと共同でZOZOTOWNの商品をヤフーの検索結果に表示する新たな施策も開始され、リリースされました。 その結果、ヤフーからZOZOTOWNの導線がより良い形となりました。

エンジニアリングリソース支援

合流したからにはお互いのエンジニアの交流やリソース支援を柔軟に行っていきたいと考えています。

ヤフーには特に検索周りで非常にノウハウを持っているエンジニアがいます。現在ヤフーから数名のエンジニアに出向してもらい、共同でZOZOTOWNの検索エンジンの改善を行っています。我々も検索特化のエンジニアなどが少ない現状ですので、このようなスキル特化型人材のリソース支援は非常にありがたく、双方にとって非常に良い取り組みとなっています。

新型コロナウイルスの影響

今年は新型コロナウイルスの影響が非常に大きい1年でした。

ファッションブランドさんや店鋪が大打撃を受ける中、我々としても、「なんとしてでもサイトの運営を続けなければならない」という思いのもと、安全に業務が行えるように3月からオフィスを閉鎖し、フルリモート勤務への体制へと切り替えました。

幸い2年前から東京オリンピックを見据えて、リモートの準備を整えていたおかげで、最初の頃は若干の混乱がありましたが、1,2ヶ月経った頃にはZOZOとZOZOテクノロジーズともにリモートでの勤務ができる状態になりました。

プロジェクト紹介

2020年にもZOZOが展開する各プロジェクトで色々な進展がありました。現在進行中のプロジェクトの進捗をいくつか紹介したいと思います。

ZOZOTOWNリプレイス

ZOZOTOWNリプレイスに関しては、2020年1月にプロジェクトを仕切り直し、新しく開発ロードマップを引き直しました。振り返ってみると、ロードマップ通りの進捗ができた1年だったと思います。

主な成果

  • VMware Cloud on AWSによるスケーラブルなインフラの実現
  • 検索エンジンのSQL Server脱却、全面Elasticsearch化による検索速度劇的改善
  • マルチクラウド廃止によるコスト削減
  • ID認証基盤リプレイスによる安定稼働
  • API Gateway化
  • APIガイドライン策定
  • Infrastructure as Code、CI/CD環境整備

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

speakerdeck.com

基幹システム

ZOZOBASEにおけるオペレーションや、基幹システム周りの作業効率化についても改善を繰り返しました。

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例えばヤマトさんとデータ連携を行い、配送ステータスが可視化して見えるようになりました。

他にも、新しい倉庫の稼働の対応や、自動包装機の導入、PayPay決済導入など、非常に多くの改修改善を行った1年でした。

また、こちらのシステム自体もZOZOTOWNと同様、ZOZOTOWNのリリース当初から利用されています。そのため、リプレイスにも着手して、VBScript / SQL Server / IISの仕組みをクラウドに持っていったり、別のデータベースや、別の言語に置き換えるような取り組みも開始できています。

MA(マーケティングオートメーション)

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ユーザーコミュニケーション周りも色々な内製化が進んだ1年でした。

ZOZOTOWNやWEARのプッシュ通知の仕組みは、以前は3rdパーティ製のものを利用していたのですが、それらを内製化、FCMを利用したものに置き換えました。これにより、より正確なプッシュ通知のデータを取得することができるようになりました。

また、ZOZOTOWNのLINEアカウントを運用するためのツールをLINE Official Account Managerから新しく作った内製化ツールに置き換え、より柔軟に、リッチにユーザーコミュニケーションを実現できるようになりました。

また、機械学習によるスコアリングを活用し、新規出店したブランドの効率的な顧客コミュニケーション施策を行いました。GoogleのCloud AutoML Tablesを活用することで、機械学習モデル作成の大部分を自動化し、非エンジニアでも検証したいターゲット変数を設定してモデルを作成できる仕組みを整えました。

www.tsuhanshimbun.com

ZOZOMAT

今年3月、昨年から予約を受け付けていたZOZOMATをリリースしました。

「ZOZOSUITの次は何か」と期待されていたものですが、次に我々がターゲットとしたのは足の計測でした。

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こちらは自分の足のサイズを正確に計測できる仕組みとなっており、計測後、自分の足にフィットする靴を探すことができるようになっています。

また、ZOZOMAT対応シューズの型数も現在ではリリース時よりも10倍以上に増えており、今後も対応型は増えていく予定です。

ZOZOMATの良さはやはりその計測精度だと思います。精度に関してのクレームはほとんどないぐらいまで誤差無く測れる状態となっています。ZOZOSUITのときの開発プロセスの失敗などを活かし、計測チームの頑張りのおかげで、かなりクオリティの高いものができていると思います。

こちらもすでに100万人以上の方が計測を行ってくれています。

ZOZOSUIT 2

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先日の決算発表にて、ZOZOSUIT 2を発表いたしました。

「ZOZOSUITって無くなったんじゃないの!?」と世間では思われていたと思います。しかしながら実は水面下でZOZOSUIT Ver.2の開発を進めていました。そして、前回よりもはるかに計測精度の高いZOZOSUITを完成させました。 今回我々はいきなりユーザーに配布するのではなく、まずは我々と一緒になってこのZOZOSUIT 2の可能性を模索してくれるパートナーを募集することにしました。一般に出回るかどうかはまだわかりませんが、さらなる計測精度の向上、そして新しい分野への応用ということにチャレンジしていきたいと思います。

LPの最後には「ZOZOXXXXX COMING SOON」という文字が見えますが、果たしてこれは何でしょうね...!

YOUR BRAND PROJECT / D2C

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10月には「YOUR BRAND PROJECT by ZOZO」というインフルエンサーの方々と共同でファッションブランドを立ち上げる新規事業を開始しました。ブランドの立ち上げにおける商品の企画や製造、生産、販売、物流、カスタマーサポートなどの運営を全面的に我々が支援するプロジェクトとなっています。

例えば丸山礼さんのブランドなどは、わずか5分で全商品が完売するなど、好調な出だしを見せています。

BtoB事業

今年の4月には「Fulfillment by ZOZO」(以降、FBZ)というブランド様向けのBtoB事業を行っていた子会社のアラタナをZOZOとZOZOテクノロジーズへと吸収合併しました。

FBZはZOZOTOWN出店企業の自社ECのフルフィルメント支援サービスで、自社EC運営のための撮影・採寸・梱包・配送などの各種フルフィルメント業務をZOZOTOWNの物流センター「ZOZOBASE」が受託し、設備投資や人件費、在庫保管料などの負担なしに、自社ECの運営が可能なサービスとなっています。

今年もクライアント数が増え、取扱高は過去最高を更新し続けており、現在ではラルフローレンさんやUNITED ARROWSさんなど、50以上のブランド様のサイトの運営業績好調で、取扱高は過去最高を更新し続けています。

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ZOZO研究所

WEARのデータを使った取り組み

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WEARの大規模データを使った取り組みを進めました。4月には髪型別コーデ検索機能をラボページにてリリース。機械学習を用いて投稿写真内の髪型を使って投稿を検索できるようにしました。

ZOZOならではの研究成果だなと思いますし、AIを用いた画像検索だけでなく、九州工業大と共同研究しているような基礎技術も用いられています。詳しい制作秘話は研究所メンバーのインタビュー記事をご覧ください。

また、定期的に調査リリースを掲載。WEARの大規模データを活用して流行の変遷をデータから読み解いていきました。

慶應義塾大学との共同研究

慶應義塾大学と「ファッションに特化したIoTノード開発および グラフィカルユーザーインターフェースの設計に関する共同研究」を開始しました。こちらの研究では主に以下の2つのことを目指します。

ファッションアイテムの見た目に溶け込む各種 IoTノードの開発

ファッションアイテムにセンサーやアクチュエータなどの機能を実装した小型デバイスの開発を行います。これらの開発したデバイス間のデータのやりとりや充電方法、配線のあり方について、ユーザーの服飾習慣に調和するソリューションをデザインと技術の両面より探索します。

デザイナーやユーザーが手軽に開発できる設計環境の開発

ウェアラブルプロダクトの開発者以外でも、これらの機能を手軽に実装できるソフトウェアのプロトタイプや、本システムを通じて作成したプロダクトのユースケース探索などを行います。具体的には、提供するプラットフォームを用いてデザイナーやユーザーが簡単に開発することができ、自身の希望に寄り添ったカスタマイズが可能となるデバイスの設計を目標とします。

ECCV採択

f:id:kyuns:20201225075707p:plain 今年は研究成果として、ZOZO研究所の斎藤侑輝、中村拓磨、共同研究者で和歌山大学講師である八谷大岳氏、統計数理研究所・総合研究大学院大学教授 福水健次氏(斎藤の博士課程指導教員)の書いた「Exchangeable Deep Neural Networks for Set-to-Set Matching and Learning」という論文がECCVに採択されました。

こちらは以前から研究を続けてきた集合マッチングをテーマとしており、今後のZOZOTOWNの推薦アルゴリズムにも活かされる機会が出てくるでしょう。

詳しいアルゴリズムはブログにて解説しています。

techblog.zozo.com

Open Bandit Data & Pipelineの公開

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8月には、Open Bandit Dataとして、ZOZOTOWN上での実際の推薦アルゴリズムから取得された 2,800万件超のファッション推薦データを公開しました。

また、データだけでなく、オフライン検証を行うのにも役立つPipelineも同様に公開しました。 本取り組みに関する研究成果として、トップ国際会議のワークショップ(ICML、RecSys、NeuIPS)を含む国内外の多くの場で発表しています。

このように、サービスにおける実際のデータを公開していくような取り組みも始めています。

GitHub - st-tech/zr-obp: Open Bandit Pipeline: a python library for bandit algorithms and off-policy evaluation

画像検索

2019年にリリースされた「画像検索機能」では、2020年7月に新たに「財布」で画像検索機能が使えるようになりました。 今後も、水着・浴衣など画像検索対応カテゴリーの拡充を行なっていくと同時に、より良い検索体験の提供のために精度や使い勝手の向上を重ねていきます。

コーポレートエンジニアリング

今回新型コロナウイルスの影響により、最も忙しかった部門だと思います。社員全員がリモートワークできるように、様々な仕組みを整えました。

詳しくはnoteの方をご覧ください。

  • Azure ADを中心とした認証基盤の構築
  • VPNの仕組み刷新+ゼロトラストベースのアクセスの仕組みの構築
  • オンプレファイルサーバーの廃止
  • MDM、EDRの刷新、CASBの構築
  • 各種ルールの制定

組織の変化

2020年は組織においても、大きな変化がありました。

リプレイスを見据えた組織へ

ZOZOTOWNリプレイスを進めていく上で、どのような組織体制がベストなのかを考えた結果、実現したいシステムアーキテクチャに即した形で組織を本部に分けました。エンジニアの数も300名を超え、1つの開発部にまとめるのは限界だったので、丁度よいタイミングでした。

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技術推進室の設置

ZOZOTOWNリプレイスを進めていくにあたって、非常に多くのことを決めていく必要性があります。そこで、技術開発本部の中に技術推進室を作り、ZOZOTOWNリプレイスに関する様々なことをとりまとめるようにしました。

全社横断して仕様を決めないといけない部分や、方向性を統一しないといけないようなものの調整をこのチームが担っています。

例えばAPIを開発するときのガイドラインやデータベース設計のガイドライン、APIとしての、SLAやSLOを確認できるダッシュボードの設定や、個人情報へアクセスする際のフローの整備などチーム横断でのとりまとめなどを、CTO室との連携を行い、スムーズに各チームが開発できるような調整を行っています。

CISO室およびZOZOグループリスクマネジメント委員会の設置

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昨年ZOZO CSIRT組織を立ち上げて社内のセキュリティリスクの洗い出しやインシデント対応などを取りまとめてきましたが、ZHD傘下となったこともあり、更にセキュリティやリスクマネジメントを強化していく必要性が出てきました。

システムにおけるセキュリティリスクだけではなく、ERMの観点などからも対応していく必要があったので、CISO室を設置し、ZOZOグループリスクマネジメント委員会を発足しました。会社におけるリスクというのは多岐にわたります。それぞれ分科会という形で、各分野ごとに対応をしていく体制を整えました。

今年を振り返ってみて

2020年は1年のうち3/4がリモートでの仕事でしたが、生産性を著しく落とすこと無く業務ができた1年でした。新型コロナウイルスの影響を大きく受けましたが、業績自体はオンラインショッピングの需要の高まりの影響も受け、好調を維持できています。我々の働き方自体も大きくアップデートされた1年でした。

来年には新しく西千葉オフィスができたりしますが、オンラインとオフラインをうまく使い分けながら、また世間をあっと驚かせるような「想像のナナメウエ」の取り組みをしていきたいと思います。

ZOZOテクノロジーズもこの1年で大きくファッションテックカンパニーへと変化を遂げれたと思います。そんな変化が激しいZOZOテクノロジーズ を一緒に盛り上げてくれる仲間も絶賛募集中です。

この記事を読んで、ZOZOテクノロジーズに応募してみたいと思ったエンジニアの方は下記の採用ページからぜひご応募ください。

その際に「テックブログみました」と書いていただけると幸いです。

tech.zozo.com

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