こんにちは。ZOZO研究所Zの藤嶋(@fjkdiet)と中丸(@ixd_circle)です。 本記事では、 新たなテキスタイル材料やその応用可能性について議論するために開催された国際会議、Comfort and Smart Textile International Symposium 2019の様子を報告します。
ZOZO研究所Zとは
はじめに本ブログに初登場のZOZO研究所Zについて簡単に紹介します。ZOZO研究所のなかで、中長期の研究開発を行う部署として新設されました。ファッションに纏わる様々な最新技術、研究潮流について調査し、そこからファッションの未来をつくる研究に取り組んでいます。
今回は、スマートテキスタイルと快適性を主題にした国際会議であるComfort and Smart Textile International Symposium 2019に参加し、国内外の様々な企業や大学といった研究機関の取り組み、動向について調査してきました。それらの内容の一端をご紹介していきます。
開催概要
本国際会議は日本繊維製品消費科学会の60周年を記念し、2019年9月6日〜7日に奈良で開催されました。 近年、第四次産業革命と呼ばれるAI、ロボティクス、IoT(Internet of Things)といったテクノロジーの急速な発展に伴い、あらゆるモノのデジタル化が進んだ結果、繊維産業も急速に変化を遂げています。 特にスマートテキスタイルと呼ばれるセンシングや温度変化といった様々なトランスデュース機能を備えたテキスタイルは、ヘルスケア、スポーツ、医療といった多様な領域のICTソリューションとして重要性を高めると考えられています。 このような潮流を受け、この国際会議ではスマートテキスタイルに関する技術や活用事例を企業や研究者の垣根を越えて共有し、研究領域のさらなる発展を促すことを目的としています。 基調講演は、ヒューマノイドロボット研究者の石黒先生、Project Jacquard を発表しスマートテキスタイル商品化の先行事例となったGoogle社、スマートテキスタイルの生産効率化への活用を試みているBMWといった企業が行い、最新の開発事例や将来的なビジョンが共有されました。 またポスターセッションでは大学だけではなく、多くの企業も参加し様々な議論が交わされていました。
ここからは本会議に参加して感じた、スマートテキスタイル業界の近年の傾向や紹介された内容の一部を紹介していきます。
本会議での報告内容について
要素技術の研究
各発表では、材料や素材そのものの研究もあれば、心拍をはじめとする身体情報を計測するデバイスについても多くの発表がありました。 例えば、エレクトロスピニングという手法でAtacticのポリスチレンを紡糸した素材の圧電特性について発表していました*1。素材、特に繊維の研究では、これまで主に通気性や強度、質感といった要素に焦点が当てられてきました。しかし、素材に加わった歪みに対して電気を発生させる圧電性といった特性が繊維と掛け合わせられると、衣服の着用者の動きや、衣服に加わった負荷といった項目を測定することが可能になり、布地の機能が拡張します。こういった動作や変形に対して電気を生み出す技術は、Motion Energy Harvestと呼ばれ、衣服だけではなく、様々な分野に応用が期待されるものです。例えば、このような素材を大きくすることができれば、将来的には発電といった用途にも応用できるでしょう。太陽電池などと異なり、天候に影響を受けない発電装置となる可能性を秘めています。その他にも、導電性のテキスタイルを用いた脈拍モニタリング、伸縮状態を抵抗値の変化から推定する技術なども発表されていました。
こういった素材そのものの技術的な研究に加えて、スマートテキスタイルの活用方法、またスマートテキスタイルを搭載したデバイスやその効能を検証するための研究もなされていました。 これには、デバイスが人が身に着ける衣服という形態をとることで、ユーザーの認知や反応にどのような影響を与えるかといった生理学的な検証といったものがあります。また、衣服型デバイスの展開時に指標となるものとして、視線や心拍といった生体情報を分析に活用する試み*2や、温度と代謝の関係を調べた試みなども報告されていました。
応用事例としてのデバイスの研究
こういったスマートテキスタイル、デバイスとしての衣服は、まさにこれから社会に普及していく黎明期といえるでしょう。なにが価値となるのか、実際にどのように普及していくのか、こういった応用の探索そのものがスマートテキスタイル領域の大きな課題のひとつとなっています。
本会議で検討例として紹介されたものを挙げると、まずは人間の生活環境や福祉の現場などで活躍するコンパニオンロボットへの搭載があります。布であることで、無機質な機械に有機的な印象を与えることができます。またBMWは、工場作業員の力の入れ具合を可視化するためのスマートグローブの事例を紹介していました。生産を効率化するだけではなく、適正な力加減を作業員にフィードバックし、技能の向上や怪我や事故の防止に役立てることができると考えられています。他にも、ゲームの操作やライブ演出といったエンターテイメント事業への応用も検討されていました。
その一方で、Google社のProject JacquardのリーバイスジャケットやXenomaが将来的なビジョンのひとつとして提示した個人ランナー向けの心拍数測定ウェアなど、個人向けのプロダクト開発も進んでいました。私達が実際に日常で使用するのは、そう遠くはない未来のようです。
加えて、スマートテキスタイルの利点は、テクノロジーを感じさせない、「みえない」状態でわたしたちの生活のなかで活用できることです。ユーザーの安心感や快適性、動作の自由度を担保することが重要となる場面、無機質な機械に抵抗感があるユーザーに配慮する必要性がある場面で、その必要性が高まっていくのでしょう。そういった意味では、スマートテキスタイルの活用は、人間のためのものだけとは限りません。実際に、自分の健康状態を伝えることのできないイヌやネコといったペットを対象に心拍をモニターするといった具合に、研究は広がっているようでした*3。これはペットに厚さ300μm程の柔らかい電極を備えた衣服型デバイスを着用させることでAAI(Animal Assisted Intervation:動物介在介入)中の犬の心拍データをモニターし、その健康状態を把握するといった試みです。
このようにスマートテキスタイルの研究は非常に学際的で、産学が連携して様々なアプローチがなされています。今回この会議に参加したことで、スマートテキスタイルが普及する未来をより身近に感じることができました。
まとめ
ZOZOテクノロジーズ・ZOZO研究所Zではファッションの新たな可能性を切り拓くべく、今回紹介したスマートテキスタイルをはじめ、多様な技術やその応用可能性について日々、研究開発を行っています。 それぞれの専門的な視点、技術から新たなファッションを描いていきたい人、ぜひ一緒に挑戦してみませんか。
おまけ
会場の周りにもたくさんの鹿が。休憩時間に鹿せんべいを買ったところ、集団に囲まれてびっくりしました。
参考文献リスト
*1:[1]Chonthicha Imusrivun1, Shintaro Kurihara1, Ryusei Kitayama1, Atsushi Yokoyama1 and Yuya Ishii1, "Piezoelectric response of amorphous electro spun fibers off atactic polystyrene", 1. Faculty of Fiber Science and Engineering, Kyoto Institute of Technology
*2:[2]Akie Naito1 and Reiko Hashimoto2, "Impressions Formed from Women's Clothing and Eye Movements of the Evaluators:Differences by Evaluator of Gender", 1.Ochanomizu University, 2.Sugiyama Jogakuen University
*3:[3]Yoko Komatsu1, Kazunori Hirata2, Yasushi Atsuta3, Hiroko Shibanai4 and Mitsuaki Ohta5, "Measurement of Dog's Heart Rate using Dog Wear with Electrodes", 1. TOYOBO CO., LTD., 2. TOYOBO. STC CO., LTD., 3.Unicharm Corporation, 4. Japan Animal Hospital Association, 5. Tokyo University of Agriculture