2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI2026)協賛&参加レポート

2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI2026)協賛&参加レポート

こんにちは。ZOZO研究所の莫です。ZOZO研究所はZOZOグループが保有するファッションに関する多様な情報資産を活用し、「ファッションを数値化する」ことをミッションとしている研究組織です。

今回は、2026年6月8日(月)から6月12日(金)にかけてGメッセ群馬で開催された2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI2026)に参加しました。本記事では、JSAI2026でのZOZO・ZOZO NEXTメンバーの取り組み、JSAI2026の様子や参加メンバーの気になった発表を報告します。なお、JSAIに参加したZOZO・ZOZO NEXTメンバーの協力を得て本記事を作成しました。

2026年度 人工知能学会全国大会(JSAI2026)会場入口

JSAI2026とは

JSAI2026とは、人工知能学会(JSAI)が主催する2026年の日本最大級のAI学術イベントです。毎年、AIに関する学術分野について広いテーマの発表や、それに関する議論が活発に行われています。2026年の今回は、群馬県・高崎市のGメッセ群馬(群馬コンベンションセンター)を現地会場としてオンラインを併用したハイブリッド形式にて開催されました。今年は人工知能学会全国大会の設立40周年でもあり、40周年記念イベントも併催されました。JSAIの参加者数は年々増加しており、今年は最終日の13時時点で過去最多となる5,246名が参加し、会場は大きな賑わいを見せました。発表件数も大きく増え続け、同じく過去最多となる1,397件の発表がありました。今年、ZOZO NEXTはJSAI2026にプラチナスポンサーとして協賛しました。

企業展示

企業展示ブースでは、ZOZO NEXTの取り組みをポスター形式で紹介しました。ZOZOの多角的なファッションサービスと多様なデータ資産、機械学習やHCIに関する研究・応用事例、そしてZOZO研究所が近年発表した論文について紹介しました。今年も多くの方々にご関心を持っていただき、お話しできたことをとても嬉しく思います。ブースにお越しいただいた皆さま、ありがとうございました。展示していたポスターはこちらです。

ZOZO研究所のミッションとZOZOTOWN、WEAR、ZOZOGLASSなどの情報資産を紹介するポスター

ZOZO研究所の研究成果としてファッションAI、集合データAI、ファッションHCI、推薦・検索とML一般の論文を紹介するポスター

また、ブースでは触り心地が変化する布(Pinching Tactile Display) のデモ展示を行いました。ファッションECへの展開だけでなく、車載シートやアクセサリー、衣服の製造支援への展開など、豊かなディスカッションをさせていただきました。誠にありがとうございました。

Pinching Tactile Display

全体の動向

発表の傾向を読むことで、人工知能分野における最新の研究トレンドを横断的に把握できるのもJSAIの良さのひとつです。JSAI2026では、生成AI、基盤モデル、大規模言語モデル(LLM)を中心とした研究が引き続き大きな存在感を示していました。特に、RAG、AIエージェント、安全性評価など、モデルそのものの性能向上だけでなく、実際のシステムとしてどのように活用し、評価し、制御するかに関する研究が多く見られました。

また、マルチモーダル化も大きな流れのひとつでした。言語情報に加えて、画像や音声、実世界の状況を扱う研究が広がっており、AIがより多様な情報を統合的に理解し、活用する方向へ進んでいることが感じられました。こうした流れは、医療、教育、製造、社会課題など幅広い応用にもつながっており、AI研究の対象がより実世界に近い場面へ広がっている印象を受けました。

一方で、AIと社会の接点を扱う研究も目立ちました。AI倫理、バイアス、説明可能性、人間とAIの協調など、AIを「作る」だけでなく、AIをどのように信頼し、説明し、社会の中で受け入れていくかを問う研究が増えているように見受けられました。JSAI2026は、生成AIブーム後の研究が、単なるモデル利用から、社会・産業・実世界の中で使えるAIへと移りつつあることを強く感じさせる大会でした。

ZOZO Researchメンバーの発表

ZOZO・ZOZO NEXTから3件の研究をポスター形式で発表しました。各研究の要約は以下の通りです。

[4Yin-A-24] 画像生成AIによる背景生成を用いた最適なフレグランス商品画像の検討

桐島雅也、荒木諒介、椎橋怜史

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/4Yin-A-24pub.confit.atlas.jp

ECサイトにおいて商品画像はクリック率(CTR)や購買行動に大きく影響する重要な要素です。特にフレグランス商品のような「香り」という視覚的ではない属性を持つカテゴリでは、商品画像を通じて世界観や使用シーンを補完することが求められます。一方、近年の画像生成AIの発展により、商品コンセプトに応じた背景を自動生成するなど、商品画像の制作手法が多様化しています。しかし、「どのような商品画像が実際にユーザ行動に有効か」については十分に検証されていませんでした。また、商品画像に背景を付与すること自体の有効性や、背景の情報量・複雑さが与える影響についても明らかではありませんでした。

そこで本研究では、商品説明文や商品タグからLLMを用いて背景生成用のプロンプトを作成し、画像生成モデルによって商品画像の背景のみを生成するパイプラインを構築しました。さらに、ZOZOTOWN上で実際にA/Bテストを実施し、「背景なし画像」と「背景を生成した画像」のCTRを比較しました。また、オンライン実験だけでは把握しきれない背景デザインの影響を詳細に分析するため、1,502件の商品画像と約50万人分のログデータを用いたオフライン実験を実施しました。この際、マルチモーダルLLMを用いて商品画像を「背景なし」「シンプルな背景」「派手な背景」の3クラスに自動分類し、背景の複雑さとCTRの関係を分析しました。

実験の結果、オンライン実験では、背景を生成した画像のCTRが、背景のない画像と比べて相対的に10.90%向上する傾向が確認されました。さらに商品ごとに分析したところ、余白の多いシンプルな背景ではCTRが相対的に38.24%向上しました。一方、情報量の多い派手な背景では54.40%低下するケースも確認されました。オフライン実験においても、同様に「シンプルな背景」が最も高いCTRを示し、逆に「派手な背景」は最も低いCTRとなることが確認されました。これらの結果から、フレグランス商品のような視覚的ではない属性を持つ商品では、背景による世界観の補完は有効であると考えられます。しかし、背景の情報量が過剰になると、ユーザの注意が分散し、認知負荷の増加によって逆効果となる可能性も示唆されました。

本論文では、フレグランス商品のような視覚的ではない属性を持つ商品画像のデザインにおいて、「背景を付与すること」だけでなく、「背景の見た目の複雑さを制御すること」も重要であるという知見が得られました。また、実サービスでのA/Bテストと大規模ログ分析を組み合わせることで、商品画像のクリエイティブ設計を定量的に評価するアプローチや、LLMを用いた画像分類・評価手法についても示しています。

ポスター発表中の桐島さん

[2F6-OS-19b-04] 事業利用に向けたファッション領域の視覚言語モデル評価用ベンチマーク設計と初期検討

サイ タウンカン、清水 悠揮、桜井 詩音、冨田 勇人、佐々木 北都、戸塚 将、久保利 彩、森本 陽菜、川田 心、宮園 太貴、清水 良太郎

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2F6-OS-19b-04pub.confit.atlas.jp

視覚言語モデル(VLM)をファッションEC業務へ適用する際には、既存の汎用ベンチマーク(MMMU等)が一般物体やシーン理解に偏っているという課題があります。そのため、色・素材・スタイルといったファッション固有の要素や、EC運用に直結する情報抽出タスクを十分に評価できていません。また、汎用スコアの高いモデルであっても、業務品質を満たすとは限らず、タスクごとのモデル選定材料が不足していました。

そこで本研究では、評価ベンチマークを提案します。このベンチマークは、タグ抽出・色分け・品質判定・シーズン判定・素材判定という5種類のタスクで構成されます。これらのタスクは、入力画像の種類によって整理できます。ユーザー投稿などの「全身コーディネート画像」にはタグ抽出と色分けを割り当てました。EC商品の「アイテム単体画像」には品質判定・シーズン判定・素材判定を割り当てました。プロンプトについては、まず人手で設計した標準プロンプト(Canonical Prompt)を用意しました。さらに、これだけではモデルごとのプロンプト相性の差を捉えきれません。そのため、各モデル自身に最適なプロンプトを提案させました(Model-Proposed Prompts)。これらを全モデルに適用して評価するMulti-Prompt Evaluation Frameworkを構築しました。最後に、商用モデル6種類とOSSモデル2種類を同一条件で比較しました。

初期検証の結果、次の4点を確認しました。なお、各タスクの精度はWeighted-F1(クラスごとのF1をサンプル数で重み付けした平均)で評価しています。第1に、タスクごとに最適なモデルが異なり、軽量モデルが高性能なフラッグシップモデルを上回るケースも存在しました。たとえば品質判定タスクでは軽量なgpt-5-miniが、シーズン判定タスクでは軽量なgemini-2.5-flash-liteが最高性能を示しました。いずれも自系列のフラッグシップモデル(gpt-5.2、gemini-3-pro-preview)を上回っています。第2に、色分けタスクのWeighted-F1は商用モデルで0.94以上に達した一方、素材判定タスクは最高でも0.28程度にとどまりました。タスクごとの認識難易度に大きな差が存在します。第3に、プロンプトを変えてもエラーの傾向はモデルごとに一貫しており、どのプロンプトを使うかよりも、どのモデルを選ぶかの影響が支配的でした。第4に、提供モデルのバージョン更新であっても、タスクによって結果が異なりました。実際に、gemini-2.5-flash-liteからgemini-3-pro-previewへの更新を例に挙げます。この更新では、Weighted-F1が13.9ポイント改善するタスクがある一方、15.7ポイント低下するタスクもありました。

本記事からは、ファッションVLMを事業へ適用する際に、「タスク別のモデル選定」「プロンプトに対する頑健性の検証」「継続的なモニタリング」が必要であることを示しました。さらに、その定量的根拠も得ることができました。

[2L4-GS-5c-05] LLMエージェントを用いたファッションECサイト購買シミュレーション ― トレンドの観測と要因分析を可能にするモデルの提案 ―

柴田 悠生、清水 良太郎、山下 遥

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2L4-GS-5c-05pub.confit.atlas.jp

推薦システムは、ユーザーの嗜好に基づいて情報を提示し、意思決定を支援します。一方で、提示される選択肢に偏りが生じ、市場における購買集中やトレンド形成に影響を与える可能性があります。しかし、現実の市場では、口コミや広告、季節性など、多様な要因が同時に作用します。そのため、推薦システム単独がトレンド形成にどのように関与しているのかを分離して検証することは困難です。また、トレンドが生じた場合でも、形成に関与する消費者属性や意思決定の構造を分析することは容易ではありません。

そこで本研究では、LLMを用いた仮想顧客エージェントによるマルチエージェントシミュレーションを提案します。ZOZOのアンケートデータに基づき、21属性を持つペルソナを生成しました。さらに、推薦システムによって商品が提示される場合と、推薦へ依存せずに商品を探索する場合を比較できる仕組みを導入しました。これにより、推薦の有無が与える影響を検証可能にしました。また、カテゴリ選択・商品評価・購買理由の生成を段階的に行うプロンプトを設計しました。その結果、エージェント属性と購買理由の対応関係を事後分析できる構造を実現しました。さらに、購買集中を成長率と購買規模に基づいて定量化するトレンドスコアも定義しました。

100エージェント×50イテレーションの実験では、推薦システムによって商品が提示される条件でのみ、顕著なトレンド創発が観察されました。この結果から、推薦が購買集中の形成へ関与する可能性が示されました。さらに、ブランド意識度や価格感度といった属性に応じて、購買理由の分布が体系的に変化することも確認されました。そのため、消費者の意思決定の構造が購買集中と結びついていることが示唆されました。本記事からは、推薦がトレンド形成へどのように関与するのかを分析する視点を得ることができます。加えて、消費者属性に基づく意思決定の構造と購買集中の関係を分析する視点も得られます。さらに、トレンド創発を観測し、要因分析を可能にするシミュレーション設計の考え方も得ることができます。

気になった研究発表

[1Yin-A-14] パレットクエリに基づくファッション画像のマルチモーダル検索

雨宮佳音、八島大地、勝又圭、杉浦孔明(慶應義塾大学)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/1Yin-A-14pub.confit.atlas.jp

ファッションECの商品検索では、「青みがかったグレー」や「くすんだピンク」のような微妙な色のニュアンスを言葉だけで伝えるのが難しいという課題があります。本研究は、自然言語の説明文に加えて、カラーピッカーで指定した色(パレットクエリ)を組み合わせてファッション画像を検索するタスクを提案しています。ポイントは、パレットクエリを単純なハードフィルタとして扱えない点です。ユーザが複数の色を指定した場合、それらは「ピンクの生地にゴールドのボタン」のように衣類の異なる部位に対応しうるため、すべての色を同列に一致させるのではなく、どの色をどの程度重視するかという優先順位付けが必要になります。また、同じ色の衣類でも素材や撮影条件によって画像上の見え方は変わるため、指定色と完全一致する商品だけに絞り込むと、本来適合するはずの商品まで除外されてしまいます。指定色に近い色まで許容する柔軟な扱いが求められるのはこのためです。

提案手法は2つのモジュールから構成されます。1つ目のIntent-Palette Fusion Moduleでは、LLMを用いて説明文を抽象度ごとに分解・構造化したうえで、RGBをCIELAB色空間へ変換したパレット特徴量から言語特徴量へのクロスアテンションを計算し、説明文中の色に関する表現を選択的に強調します。2つ目のConfidence-Based Relaxed Alignment Moduleは、対照学習で問題となる「ラベルは付いていないが実際にはクエリに適合してしまう画像(unlabeled positive)」への対処です。MLLMでテキスト・画像ペアごとに信頼度を推定し、類似度が信頼度を下回る場合にのみペナルティを課す緩和版の対照損失を導入することで、通常のInfoNCEで生じる「本来似ているペアの類似度まで抑制されてしまう」問題を回避しています。

実験はMarqo Fashion200Kにパレットクエリを付与して行われています。学習データにはセグメンテーションとスーパーピクセルのCIELABクラスタリングによる自動付与、テストデータにはECの検索UIを模したインタフェースでの手動付与と、データセット構築まで含めて丁寧な設計です。結果として、提案手法はR@1で74.6%を達成し、最良のベースラインを9.4ポイント上回りました。パレットクエリなしの構成でも73.8%と高く、ユーザが色を指定しない場合でも性能が落ちない点も実用上は重要です。定性例では、「red dress」を含む説明文とパレットの組に対して提案手法が目標画像を1位に返した一方、SigLIPでは指定した色よりピンク寄り・濃い赤の商品が上位を占め、目標画像は37位に沈んでいました。

色は購買判断を大きく左右する一方で、言葉で正確に表現するのが最も難しい属性の1つです。カラーピッカーという誰にとっても直感的なUIで検索意図を補えるこのアプローチは、1枚のRTX 4090で学習約20分、1600枚に対する類似度計算が約0.8秒という軽さも含めて実運用のイメージが湧きやすく、ファッションECの検索体験にそのまま繋がりそうな研究だと感じました。

[2L1-GS-10t-02] 商品説明文を対象としたECRTMとLLMによる反復的トピック洗練に関する一考察

鷹羽慧、王嘉翊(早稲田大学)、楊添翔(慶應義塾大学)、邵騰飛、後藤正幸(早稲田大学)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2L1-GS-10t-02pub.confit.atlas.jp

ECサイトでは「家電」「食器」「スポーツ用品」といったカテゴリ体系が一般的に用いられる一方で、「初心者向け」「携帯性」といった、ユーザの利用シーンや機能的なニーズに基づく商品間の関係を十分に捉えきれません。本研究では、このような意味的な商品関係を商品説明文から抽出し、「朝食・ティータイム」「衝撃吸収」「装飾的」といった解釈しやすい分類軸として整理することを目指しています。また、「一人暮らし向け」と「省スペース性」のように、事前には体系化されていなかった商品間の潜在関係を発見することにも繋がります。

このような分類軸を人手で設計するには大きなコストがかかるため、商品説明文にトピックモデルを適用して自動抽出するアプローチが考えられます。しかし、商品説明文は一件あたりの記述量が少なく、語彙のばらつきも大きいため、従来のトピックモデルでは意味が曖昧で解釈しづらいトピックが生成されやすいという課題があります。また、LLMによるトピック洗練を全てのトピックに適用すると計算コストが大きく、ノイズを含むトピックに対して不適切な意味付けが行われる可能性もあります。

そこで提案手法では、Embedding Clustering Regularization Topic Model(ECRTM)で商品説明文からトピックを抽出したのち、その中からトピックの意味的な一貫性のスコアで絞り込んだうえで、LLMによる意味的評価も加味して有用なトピックのみを選別したうえで、トピックの文脈に合わない単語を特定し、意味的一貫性が高まるように置き換えます。さらに、洗練後のトピック情報をECRTMの学習に反映することで、トピック生成とLLMによる洗練を反復的に行います。これにより、ノイズを含むトピックの影響を抑えつつ、既存カテゴリを横断する解釈しやすい商品分類軸の抽出を実現します。

日用品、キッチン用品、スポーツ用品やアウトドア用品といった商品データを用いた評価実験を実施し、提案手法はトピックの意味的一貫性を表すCoherence Valueをベースラインの0.2750から0.4163まで向上させつつ、トピックの多様性を表すTopic Diversityも高く維持しました。また、定性的にも「本格カフェ・朝食スタイル」「衝撃吸収・振動制御ギア」など、既存カテゴリをまたいだ解釈しやすい商品群が得られており、ECにおける商品整理や企画立案への応用可能性が示されています。

[5I1-OS-3-06] PID制御構造を内包する方策を用いたプロセス始動運転の強化学習

村松航祐、池本隼也、橋本和宗(大阪大学)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/5I1-OS-3-06pub.confit.atlas.jp

非線形な挙動をみせる非定常運転に対して、PID制御や線形モデル予測制御などに基づく従来のプロセス制御方式は適用が難しく、現場では熟練運転員の経験に基づく手動操作に依存していることが多々あります。そこで非線形かつ高次元の状態をもつシステムに対する制御器設計法として期待されている深層強化学習(Deep Reinforcement Learning: DRL)が候補にあがりますが、DRLは学習の不安定性や効率の悪さが指摘されており、プロセス制御への応用障壁の1つとなっています。これに対するアプローチとして、ニューラルネットワークとPID制御の構造を強化学習の方策に組み込むControl-Informed Reinforcement Learning(CIRL) が提案されており、学習効率、制御性能、および外乱に対するロバスト性の向上が期待されます。

しかしCIRLは初期状態と目標状態が大きく乖離している状況下では、CIRLによって目標状態へ到達可能な方策の学習が困難な場合があります。そこで、方策に組み込まれたPID制御部分に最終的な目標状態を与えるのではなく、最終的な目標値と現在値の間に中間の目標値を与え、段階的に最終目標状態に近付ける方策モデルをこの研究では提案しています。

数値実験では既存の手法より提案手法の方が、応答速度と目標値への追従性能に関して向上したと示されており、強化学習を導入したことによる課題をシンプルな発想で解決した点が面白いと感じました。

[5M2-GS-2c-04] 相互励起を伴う点過程データに対するグレンジャー因果性検定に基づくグラフ構造学習

竹中 敦史(大阪大学大学院情報科学研究科)、福井 健一(関西大学ビジネスデータサイエンス学部)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/5M2-GS-2c-04pub.confit.atlas.jp

本発表では、多次元イベント発生系列データから次元間の因果構造を表現する有向グラフを推定する方法を提案しています。Hawkes過程は点過程と呼ばれる確率モデルの一種で、自己励起のあるイベント発生のモデリングに用いられます。地震発生の統計モデリングの例が典型的で、大きな地震(=イベント)が発生してしばらくは余震などの大きな地震が再び起きやすい、といったような形でイベント発生時系列をモデル化します。多次元Hawkes過程ではさらに複数種のイベントの発生とそれらの間の相互励起の構造を取り入れることができます。すなわち東京で起きる地震と大阪で起きる地震を、相互作用を考慮しながらそれぞれモデリングできるというイメージです。

本研究では多次元Hawkes過程において、どの次元で発生したイベントがどの次元に影響を与えるかを、グレンジャー因果性検定を用いて推定する方法を開発しています。なおグレンジャー因果は、単に「大阪で発生した地震のデータを使うことで東京の地震を予測しやすくなるかどうか」というような時系列データの関係性を示す概念で、因果推論などで考えられる因果とは似て非なるものです。

提案法ではある次元dに対するグレンジャー因果性をもつ次元の組を調べるために、その次元を考慮することによって最も対数尤度を最大化されるような次元d’を同定し、d’からdへの作用の有無をグレンジャー因果性検定によって調べます。帰無仮説が棄却されればさらに{d, d’}の組に対して最も対数尤度を最大化するd’’を追加して再びグレンジャー因果性検定を適用します。この一連の流れを、検定が棄却されなくなるまで多重検定の補正をしながら繰り返します。

実験結果では適切にグレンジャー因果性検定の有意水準を定めることにより、既存法よりも偽陽性のケースが抑えられ、F1スコアの意味でも良い結果が得られたとのことでした。アルゴリズムのシンプルさなどから実用上の使いやすさの面でも秀でており、一致性などに関する理論的な議論や組合せ最適化との関連など、様々な広がりが予想される面白い発表だと思いました。

[2K4-GS-7b-01] 再構成的画像埋め込みによる直交潜在シフトを用いたテキスト-画像拡散モデルにおける色のバイアス緩和

藤谷 恒輝、邵 之昊、田邉 克晃、渡辺 健太、山崎 俊彦(東京大学)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2K4-GS-7b-01pub.confit.atlas.jp

画像生成AIを使っていて、指示した色と異なる色のオブジェクトが生成されてしまう、といった経験をしたことはないでしょうか。text-to-imageモデルでは、「黄色いサンタクロース」といった典型的な色と異なる指示を与えても、学習データ中で頻繁に観測される色が優先されてしまうことがあります。本発表はこのような色バイアスを緩和するために、テキスト埋め込みへ介入するアプローチを提案しています。

本手法は介入するためのベクトルを得るステージと、バイアスを緩和しつつ画像を生成する2ステージに分かれます。本研究がユニークなのは、介入するためのベクトルをfine-tuningしたCLIPの画像エンコーダから得ている点です。このfine-tuningでは画像の埋め込みベクトルをStableDiffusionの入力とし、与えられた画像を再構成する形で行われます(ステージ1)。ステージ2ではテキストからの画像生成の際に、テキスト条件とは無関係な画像の埋め込みベクトルにスカラーαを乗算した上で、テキスト埋め込みに足し合わせて色のバイアスを緩和した生成を実現します。ただし現時点ではスカラーαは、色の反映が難しいテキストプロンプトごとに、-0.15から0.15の範囲で手動にて探索する必要があるそうです。

一見ステージ2で与えられるランダムな画像の構成に影響されそうですが、αの絶対値を十分小さくすることで、入力画像の構成に影響を受けずにバイアスを緩和することに成功しています。論文では足し合わせるベクトルとしてガウシアンノイズを採用した場合と比較されており、本手法で得られたベクトルの有効性を示しています。また興味深いことに、本手法で得られた画像埋め込みベクトルは、テキスト埋め込みベクトルとほぼ直交することを報告しています。

色のバイアスがガウシアンノイズに対し頑健であること自体も知見であり、直交するベクトルが色のバイアスの緩和に有効であった結果は重要かと思います。解釈には議論の余地がありますが、意味の成分を持たないベクトルが「オブジェクト」と「よくある色」の結びつきを緩和するという考察も興味深いと感じました。

[3Yin-A-44] 用語辞書を用いたLLMによる設計書の表記ゆれ自動修正手法

西川 和寿1、是枝 祐太1、森 靖英1、大井田 駿1、福井 大輔1(1. 日立製作所)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/3Yin-A-44pub.confit.atlas.jp

生成AIを設計書レビューに活用する取り組みは増えていますが、実際の開発現場ではプロジェクト固有の略語や業界用語が多く、単純にLLMへ「表記ゆれを直して」と指示するだけでは十分な精度が得られません。本研究では、設計書から固有用語を抽出して意味付きの「用語辞書」を自動生成し、その辞書をLLMに与えながら表記ゆれを検出・修正する手法を提案しています。さらに、表記ゆれを「漢字/ひらがな」「略称/正式名称」「半角/全角」など6種類に分解して個別に推論させることで、検出漏れを減らす工夫も行われています。

評価では、金融システムの基本設計書30件を対象に、単一プロンプト方式と比較しました。その結果、表記ゆれ種別ごとの反復実行によって指摘率が向上し、さらに用語辞書を追加することで平均修正成功率は0.325から0.432へ改善しました。特に小規模モデルでも改善効果が見られ、モデル性能だけに頼らず、タスク分解とドメイン知識の付与が有効であることを示しています。

ZOZOのようなECサービス開発でも、設計書や仕様書には社内固有の用語や略称が数多く登場します。また、商品管理やレコメンド、物流など複数ドメインが混在するため、用語の不統一は認識齟齬やレビューコスト増加につながります。本研究は「LLMを賢くする」のではなく、「社内知識を辞書として与え、チェック観点を分割する」という実践的なアプローチであり、設計書レビュー支援だけでなく、要件定義書や運用ドキュメントの品質向上にも応用できそうだと感じました。

[4F5-OS-29c-03] 感情推定を用いた長期対話のための大規模言語モデルによる記憶管理

南谷優里、長野雅俊、谷口忠大(京都大学、電気通信大学、立命館大学)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/4F5-OS-29c-03pub.confit.atlas.jp

LLMを用いた対話システムでは、ユーザーと長期的にやり取りする中で、「何を記憶し、何を忘れるべきか」が重要な課題になります。すべての会話を保存すれば情報の取りこぼしは少なくなりますが、データベースが肥大化し、検索効率や応答品質の低下につながる可能性があります。一方で、単純に古い情報を忘却してしまうと、ユーザーにとって重要な経験や好み、人間関係に関する情報まで失われてしまいます。

本研究では、「強い感情を伴う出来事は長期記憶に残りやすい」という心理学的知見に基づき、LLMを用いた記憶管理手法を提案しています。具体的には、ユーザー発話に含まれる感情の強さを推定し、それを記憶の重要度計算に反映します。その際、感情強度に加えて、記憶が過去に参照された頻度や現在の対話との関連度を数値化し、それらを組み合わせて各記憶の重要度スコアを算出します。 これにより、ユーザーにとって意味のある対話内容を優先的に保持し、相対的に重要度の低い情報を忘却することが可能になります。

実験結果では、提案手法はすべての発話を保存するRAGほど高い正答率ではないものの、忘却機能を持つ既存手法の中では最も高い正答率を示しました。また、長期的に保存する記憶数を抑えながら、ユーザー理解に必要な情報を保持できる点も確認されています。本研究は、長期対話エージェントにおいて、単に多くを記憶するのではなく、ユーザーにとって本当に重要な情報を選択的に記憶することの重要性を示した研究だと感じました。

特に、パーソナルAIや対話型アシスタントのように、ユーザーとの継続的な関係性が求められる場面では、このような記憶管理は重要になると考えられます。今後、感情だけでなく、ユーザーの目的や状況、対話の文脈なども組み合わせることで、より自然で信頼できる長期対話システムにつながる可能性があります。

[2Yin-B-02] 次元削減による日本語埋め込み表現の文章長バイアスの検証

鈴木 彰人、田代 雄介(三菱UFJトラスト投資工学研究所)

https://pub.confit.atlas.jp/ja/event/jsai2026/presentation/2Yin-B-02pub.confit.atlas.jp

本研究は、入力文の長さによってテキスト埋め込みモデルの出力がどう変化するか(文章長バイアスが存在するか)を、次元削減の手法などを用いて調べた論文です。文章長以外の条件(意味など)をできるだけ揃えるため、モデルの入力にはウェブ上の日本語の記事と要約文がペアになったデータセットを用い、埋め込みモデルの出力が入力の長さによってどう変化するかを調べています。

実験では、複数の埋め込みモデルの出力を様々な観点で分析しています。最初に、埋め込みのL1ノルムの大きさを比較すると、いずれのモデルでも要約文の方が要約する前の文章よりもノルムが大きくなることが明らかとなりました。また、埋め込み表現に対して主成分分析(PCA)を行い各主成分の値の差分を比較すると、上位主成分の値が要約前と要約後で大きな差が出るモデルと、そうではないモデルに分かれる結果となりました。一方、独立成分分析(ICA)を行って同様の分析をした場合、モデルによらず文章長の違いを表す成分が得られる結果となりました。これらの分析により、いずれのモデルも入力の長さや情報密度の違いを情報として(大なり小なり)保持することが示されました。文の意味や言語の違いではなく、文の長さに注目してテキスト埋め込みを分析する研究はあまり見たことがなかったので、面白いと感じました。

おわりに

本記事では、JSAI2026の参加レポートをお伝えしました。今年もJSAIに参加し、業界の最新動向を俯瞰するとともに、多くの新たな知見を得ることができました。また、発表を通じてフィードバックをいただけたこと、スポンサーブースで弊社の取り組みをご紹介できたことは、大変貴重な経験となりました。今回得た知見を今後の研究開発へ活かし、さらなる成果の創出と業界の発展への貢献を目指して、引き続き邁進してまいります。

ZOZOでは、一緒にサービスを作り上げてくれる方を募集中です。ご興味のある方は、以下のリンクからぜひご応募ください。

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